Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#909 ミッション・コンプリートなんだけど~「夜叉萬同心 7」

『夜叉萬同心 7』辻堂魁 著

過去を打つ。

 

どうにかして家の中を片付けようとしているのだが、この頃は転勤が決まった友人の話を聞きながら、自分がその立場になったつもりで処分を進めている。やっぱり問題は本の量で、Kindleの便利さに慣れてしまうと紙の書籍が面倒になってしまって未読の本が全く減らない。重さ、ページをめくるという作業、テーブルに置いて読もうとする時に何等かの支えが必要なことなどが面倒に感じるなんて、自分でもちょっと驚いているのだが、Kindleがそれだけ便利だということなんだろう。空き時間に何か読もうと思う時も真っ先にKindleを手に取るようになっているが、紙の本を読んで書店を支えたいという気持ちもあるので、やっぱり紙の本もしっかり読んでいきたい。

 

とはいえ、読みたいのはこの頃楽しく読んでいる時代小説で、やっぱりKindleを手に取ってしまった。この頃読んでいるのはこちら。

 

 

萬七蔵は今は隠密方同心として活躍しているが、隠密方に任命される前は定廻り同心であった。七蔵の昇進は早かった。そもそも定廻りも随分若いうちに抜擢されており、周囲からはやっかみもあって嫌な噂を流された。当の七蔵は周りに何を言われようと気に掛けることもなく仕事に集中していたのだが、お奉行が七蔵の腕を見込んでいるなど、気に入らないことはあるのだろう。ごますりがうまいだの、袖の下をたらふく受け取っているなど、全てが嫌な話である。

 

それはまだ七蔵が定廻りについて数か月経った頃だった。与力の家に勤める下働きの侍の事件で七蔵だけではなく北町奉行所を悩ませた大事件である。その侍は三一と言われ、身分も高くはなく与力の家での下働きをする男だった。見た目は品の良い青年ではあったが、いつも病を持つかのように青い顔色でよく得たいのしれない人物として八丁堀の中でも知られている。親しい者もいないようだが、身分の低い者へはものすごい勢いで怒りをぶつける男として嫌煙されている。

 

七蔵はお奉行より町内で起きた事件を任されていた。町民がいきなり斬られるという事件で、なかなか解決へとつながらない。手下総動員で動いていたにも関わらず、お奉行から言われた百日以内の解決は難しいと思われていた頃、七蔵の家で働くお梅が近所から聞いた噂話だと岡っ引きの嘉助へ耳打ちした。

 

なんでも八丁堀で猫が斬られるという事件があり、その犯人が与力の家の三一だという。七蔵は今扱っている事件との関係を疑いつつ、より事件を深く追おうと毎日手下たちと調査の報告を兼ねて集まっていた。

 

知恵を絞っている間にも次の事件が発覚する。そして七蔵の地道な調査は徐々に犯人へと近づいていたのだが、思わぬ方向へ事件が広がってしまう。与力の家の三一がやはり気になる七蔵は、すぐに男を追ったが結局北町奉行所は三一を逃してしまい、それが奉行所へいつまでもしこりとして残っていた。

 

三一は逃げ延びていた。再び現れたとの通報があり七蔵は捕獲に向かうのだが、やはり一筋縄ではいかない闇の中にその男は潜んでいた。

 

過去へと話題が飛びその事件を追うところから物語は始まる。そして今の隠密方へと戻りいつもの手下とともに事件へ立ち向かうのだが、七蔵の成長の様子が伺える楽しみがあった。今も昔も真直ぐな七蔵だが、やはり隠密方になってよりハードボイルドな感じがする。

 

加えてこの三一とその周りの人々の心理というか、心の動きに何とも言えない寂しさがある。寂しさが悲しみとなり、怒りとなる。またはその怒りの中に寂しさがあることを見抜く者もいる。人の心の繊細さが事件の奥に隠れていて、それが時に現れたかと思うと鬼のような顔を見せて遠くへ行ってしまう。ただただ不幸。