Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#904 江戸時代なら歩いて移動したであろう行き先へ電車4回乗り継いで移動中~「夜叉萬同心 5」

『夜叉萬同心 5』辻堂魁 著

遠い。

 

この頃読んでいる本シリーズ。結構ずっしりと読み応えがあって、1冊読むのに比較的長い時間がかかっている。その分楽しめる時間も引き延ばされるので遠距離の移動時間に読むことにした。

 

車であればさっと1~2時間で行ける距離なのに、電車となると倍以上の時間がかかる場所がある。私はたいてい公共機関で移動するので「読書時間が出来てラッキー」と思う質なのだが、近隣県でも乗換が4回とか5回となるとさすがに疲れる。土地勘の無い場所だと読書していて乗り過ごしてしまうと大変なことになるので、数駅の場合はじっと通り過ぎる駅と路線図を見ながら確認していることも多々だ。

 

今回は行き先が本書に出てくる地域を通るルートで、むしろ外の景色が気になった。今や電車でこうしてありがたくさくっと移動できるが、昔は徒歩だったと思うとこれを1日で歩くとはかなりの健脚!そもそも時代小説で一番驚くのは移動についてで、八丁堀から内藤新宿まで歩いて往復しているシーンを読む度に「無理じゃないけど相当ハード!」と日頃の運動不足の自分に歩け!と言いたくなる。

 

 

さて、5巻目。読み進むほどに主人公である七蔵の温かさというか懐の深さがにじみ出ていることに気が付けるのだが、本巻ではそのハードボイルドさに更に磨きがかかっており、西部劇に置き換えてしまいたくなるような渋さが光る内容だった。

 

七蔵はその剣術の腕や体格、加えて順調に昇進を重ねた周囲のやっかみもあり、いつしか町民にも無心するような鬼の同心というイメージを形作られてしまった。賭場などにも出入りし、誰一人として逆らえない男であるとの噂が立ち、それが夜叉のようだと夜叉萬というあだ名まで付けられてしまう。

 

同じ北町奉行所の中ではあっても同心には役割次第では顔を合わせることもないような場合もあり、特に隠密方同心である七蔵は調査のために長く不在にすることもあるため、七蔵と面識のないものもいる。噂のみを信じて七蔵と距離を置く者もいるが、お奉行には一目置かれている事実を他はあまり知らない。

 

今回も上からの司令で調査に当たる七蔵だが、今回はかつて江戸払いとなった悪人がまた江戸に舞い戻ったという情報だった。奉行所が自ら探し当てたのではなく、他の悪人仲間からの密告により事の次第が明るみに出た。密告内容の真偽を確認するにも、ここは腕利きの七蔵へとお奉行から直接指示が告げられる。

 

権八なる男は計画的に盗みを行う常習犯で、その一味が捉えられた際に江戸追放となった人物だ。それが地方でまたもや盗みで頭角を現しあやめの権八という二つなで呼ばれていたらしい。その権八が江戸に戻り、縄張り争いに加わった挙句、頭にあたる人物に手をかけたとの密告内容に七蔵はその証拠を追うわけだが、権八の影には一味とは別の人物の姿があった。

 

その人物の背景がなにか物悲しさを滲ませている。長く同心として任務に当たっているとその人物が悪事に関わっているかいないかがわかるようだ。七蔵もすぐにその人物の怪しさに気が付くも、なにかひっかかるものがある。それは「悪」という事実と、人をそこへ導いた過去の狭間にある「人情」なのかもしれない。

 

今回は猫の倫の登場は控えめ。ああ、早く続きが読みたい。