Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#907 春の和菓子のお供に~「夜叉萬同心 6」

『夜叉萬同心 6』辻堂魁 著

江戸の女性の物語。

 

コロナ明けのインバウンド需要は相変わらず陰りを見せず、むしろ3月に入ってどんどんと増しているような気さえする。昨日ホテルの方とお話をしていたら、春は繁忙期なんだそうだ。なぜなら、「桜」があるから。

 

自然の理を人間が操作することはできない。もしできるならば桜の開花もピンポイントで日程を絞ることができるだろう。しかしそれが出来ない故、3月半ばから4月の半ばまでのホテルはものすごく混むらしい。早い段階でこの時期の予約を入れ、開花予定日を見ながらキャンセルチャージが発生するぎりぎりまでルームをキープされる方が多く、泊まる側としては「なるほどな」と思いはするが、ホテルとしてはそれもちょっと困ってしまうのではないだろうか。

 

さて、そんな桜の開花日予定日がちらほら出始め、要約「今年まだ桜餅食べてないわ」と気が付いた。私は断然道明寺派なのだが、仕事が終わってから和菓子屋さんによっても生菓子はもうほとんど残っていない。かといってスーパーやコンビニの和菓子で済ませたくはないので、近くちゃんと計画を立てて春の和菓子を食べるタイミングを作りたいと考えている。

 

和菓子と共に読む時代小説は何よりも至福。昨日はお客様から頂いた鹿児島の銘菓「かすたどん」があったので緑茶を淹れ、本書に没頭。ジェネリック萩の月などと言われているらしいが、このスポンジケーキとカスタードクリームの組み合わせで言えば、私はかすたどんが一番好きだ。次点で札幌のタイムズスクエア。この二つはクリームがおいしい。萩の月は和菓子らしいもったりぼったりしたクリームだが、かすたどんタイムズスクエアのクリームは洋菓子のそれである。緑茶で頂けば和菓子風。もちろんコーヒー紅茶もパーフェクトマッチです。

 

さて、本書は今読んでいるシリーズの6巻目となる。


現在9巻目まで出ているので、速度を落としてゆっくり読みたい気分になっている。

 

本シリーズの主人公は萬七蔵という北町奉行所の隠密方同心である。七蔵には現在3人の手下がいる。まず、嘉助親分は室町で髪結いの商いの傍ら、長く七蔵の手下として勤めてきた。しかし還暦が近くなりそろそろ引退を考えた頃、貸本屋の息子で将来は物書きになりたいという樫太郎に七蔵に付きそう手下の座を譲った。樫太郎は嘉助の元で下引きとして働きながら、将来ネタとなりそうな事件を集めていた。まだ若いのになかなか気が利くこと、そして本人のたっての希望で七蔵の手下となる。最後はお甲だ。お甲は手練れの掏摸の娘だった。父親がつかまり、獄中で病のために他界した後、与力の勧めで奉行所の手下として働いている。普段は長屋で三味線を教えているが、お甲は気立ても良く、知恵もあり、女性ながらに頼れる手下の一人である。

 

本書はそのお甲が主役だ。お甲は掏摸の大親分の男で一つで育てられた。母親の存在は朧気にしか記憶していない。それもそのはずで、母親はお甲がまだ幼い頃に家を出てしまい、それから二度と戻ることはなかった。

 

お甲は今はもう二十歳を過ぎ、年増と呼ばれる年齢となった。しかし二親のことは心のしこりとして残っている。ある日、お甲を訪ねてきた者がいた。そしてお甲は七蔵や嘉助に告げることなく、その者と出かけてしまった。そして行きついた先でお甲が見聞きしたことは、お甲の心の奥深くに眠った悲しみを揺り起こすこととなる。

 

お甲が聞いた話はこうだ。武家の女房がいなくなったという。武家とは言え、禄も少なく家族を養っていくには町人よりもずっと苦しい生活を強いられている御家人の家だ。夫の病もあり口に糊する術もなく、女房は自身を売ることにした。

 

いつもの通り、妻は夜の世界へ消えたと思っていたが何日たっても戻らない。武家の妻がそのような仕事で生活を支えているとはあまりにも対面が悪すぎる。内々に調べて欲しいとの依頼であった。

 

その頃、七蔵は居なくなった両替商の手代を探すようにとの指令を受ける。本来であればお甲の手を借りたいところだが、お甲の直々の頼みゆえ、今回だけはお甲は自身が受けた人探しを続けている。調べを続けていると底の闇が湧き起こり始めた。

 

加えて、お甲が偶然に出会った茶屋でも事件が起きる。ここの女房には影がある。お甲の目にはいわく付きであることがしっかりと見えていた。そしてある日、お甲が茶屋で餅とお茶を楽しんでいた時だった。突然来客があり、そこで女房の正体が知れる。

 

2つの事件が交互に語られ、話は前後しながらもどこか似通ったところがある。恐らく、お甲が七蔵と同じような心持があるからだろう。人に対する情だけではない。悪を罰するという思いが二人を繋いでいるのだが、恐らくお甲はそれだけではないだろう。

 

ああ、あと3冊しか残っていないとは。ゆっくり味わいたい。