Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#894 日本酒よりはウイスキー片手に読め!的な時代小説~「夜叉萬同心 冬かげろう」

『夜叉萬同心 冬かげろう』辻堂 魁 著

シリーズ1作目。

 

余りの風の音に夜何度か目が覚めてしまった。しかも寒い。満足な睡眠時間というのは人によって大きく差があると思われる。私の場合ベストは5~6時間で、8時間寝ると体がだるい。5時間を下回ると次の日に疲れを持ちこす感が残る。一度寝入ってしまうと朝まで起きないタイプなのだが、昨日は1時間おきに目が覚めてしまい、朝はまだ眠りの中にいるような感じ。

 

さて、昨日のことだが「。ハラ」の話になった。これ、英語の場合、「.(ピリオド)」打たないってことになると思うのだが、多言語でのメッセージのやり取りどうしている?というのが社内でのテーマ。その場にいた業務上日本語以外の言語でのやり取りの多いメンバーはみな、「ピリオドは打つ。文章が2つ以上になったら絶対打つ。」とのことだった。あと絵文字入れるという人も多くいた。どこどこの国の人はこの絵文字が好きだ、みたいな話でも盛り上がり、結局日本語の「。(マル)」の扱いについては「むしろSNSを使って日本語で長文打つことがない。だから。が登場しない」というオチである。試しにみんなでSNSをチェックすると、ものの見事に短文ばかりである。こういうことから将来的に小説の傾向なんかも変わって来るのかもね。

 

昨日はちょっとストレス多めの一日だったので読書に癒しを求める。疲れには時代小説が一番ということで、早速Kindleの中を物色。まだまだ読んでいない小説があることが嬉しくなったのだが、それでもやっぱり書籍数が多すぎるので早めに読んでいかなくては。

 

本書を購入した意図はいろいろな作家の作品も読んでいこうと考えたからで、著者のお名前のかっこ良さに惹かれてのことだった。なんとなく硬派な武士ものを連想する。

 

主人公は北町奉行所の同心で名を萬七蔵という。「よろず」と読むが、親しい与力などは「まんさん」と呼んだりもする。多くの同心は一代限りという本来の習わしには従わず、ほぼ世襲であった。萬家も息子の七蔵が引き継いだのだが、それでも七蔵の父が鬼籍に入ったのは本人が7歳の時であるから相当早い。父は事件の中で命を落とし、父の他界から数か月で後を追う様に母も亡くなった。13歳で見習いとして奉行所へ入り、異例の速さで出世した七蔵は、嫉妬のせいか口悪く言われることもしばしばである。

 

加えて剣術も強く、16歳にして師範代になるほどの腕前でもある。恐ろしく強いことから「夜叉」の二つ名が界隈に響くようになった。それはまだ30代にして定廻り同心となった時代のことで、夜叉萬を知らない悪党はいないほど名を轟かせていたのだが、ある日お奉行より七蔵は隠密廻り方同心へとの命を受ける。

 

もともと七蔵には冷静に深く考えるようなところがあるようだ。よって剣術の強さや体躯の良さから周りから恐れられたわけではない。事件の真に迫る方法を知っているがため、罪を犯した側にすれば「逃げられない」という思いが募る。しかし夜叉のあだ名はあれとも七蔵は鬼ではない。幼い頃に両親を亡くしているせいか、情にもろいところがある。理不尽な行動もとらず、どこかに悲しみも携えているようなちょっとハードボイルドな武士ストーリーである。

 

本当に悲しいのだ。七蔵は二十歳を過ぎ嫁を娶るも、若くして病で急逝。親代わりであった祖父も嫁を見送った数年後に逝ってしまった。今は祖父の面倒を看てくれていた手伝いの婆さんとの二人暮らし。後妻を娶ることもせず、今七蔵は四十代となった。

 

しかし七蔵の周りには信頼できる気の良いものも多い。同心には小者と言って捜査を手伝う者がいる。元は髪結いの嘉助が七蔵を手伝っていたが、嘉助ももう歳を取ったことと知り合いの地本問屋の息子である樫太郎がぜひ七蔵のもとで働きたいいうことで、七蔵の手下は嘉助から樫太郎へと変わる。樫太郎は16歳の若造にしては気も利くしよく働く。またお甲という女手もいる。もとは盗賊だったが今の奉行を支える与力の久米がお甲を仕事の担い手として育てたという過去がある。逆恨みを受けしばし上方に身を隠していたお甲だがこのほど江戸へと返り咲いた。捕り物で知り合った音三郎も心根の優しい青年だ。兄の敵を取るべく今は江戸にいる。

 

それにしても今回は立ち回りのシーンが多く、剣道などもかじったことのない読者にはちょっと理解が難しい。戦いのシーンはさっと読み流すくらいで読み進めているが、ぎゅっと詰まった濃いストーリーに読書の満足感が増してくる。決して派手ではないが、落ち着きとじんわりした優しさのある深みがまさにウイスキー感たっぷり。

 

しばらくはこれを楽しみに読み続けたい。