『数字であそぼ。』絹田村子 著
数学。
3月に入り体調管理が上手く行っていないことに加え、仕事が少し忙しい。お得意先様とも花粉症や気温差アレルギー、低気圧による体調不良など、今年の3月は例年よりハードだよね、という話で盛り上がった。
外出するとなんだか一気に疲れが出てしまう。オフィスに戻る途中、気分転換にと書店に立ち寄った。本書はそこで出会った一冊である。コミックのコーナーを素通りしようとした時、学生さんたちが本書が積まれた一角の前で「これ、読んだ?」と本書の話をしていた。何気に聞こえたその会話に引き込まれ、つい1巻目だけ購入。あまり数学は得意ではないが、マンガだし読んでみることにした。
主人公の横辺建己はこの度晴れて西日本を代表する吉田大学へと入学した。吉田大学はどう考えても京都大学を想定しての流れで、天才がうようよいる感じは変わらない。横辺くんもその天才の内の一人で、彼は一度見たものを瞬時に覚えてしまうという能力がある。しかもその記憶が頭の中にストックされているので学業に苦痛を感じることがなかった。
この設定、今や英国ロイヤルの不人気代表格となってしまったメーガンが登場していたことで知られる「スーツ」というドラマの主人公と同設定だ。彼も瞬間記憶の達人で、六法を始めとする法律関連のあらゆる資料をすべてインプットしている天才だ。しかし弁護士の資格を持たず、自身の履歴を隠して弁護士として活躍するといった内容。
しかしどんな天才でも挫折を味わうことがある。横辺くんの場合、なんでも頭の中に入っているものを引き出してくるだけでテストも難なくクリアできたので、自力で考えるということに慣れていない。
大学に入り、数学のクラスでそれは起きた。周りの学生はふつうに問題なく授業についていっているようだが、横辺くんは何が起きているのか全くわからない。板書されたものはあっという間に記憶できたが、何を話しているのかその意味が全くわからない上に、何について自分がわからないと思っているのかもわからない。
クラスメイトはむしろ授業の内容に満足している風でもある。困った横辺君は声をかけた。そして彼は人生初の挫折を味わう。
このまま横辺くんは講義1日目にして引きこもり生活に入ってしまった。今まで「わからない」を経験したことが無かった彼にはこの「数学なのに何言ってるのかわからない」という事態は相当ショックだったようだ。そしてそのまま2年間を引きこもって暮らしてしまう。
横辺くんは大学の近くの下宿で暮らしていて、そのおうちにはだんごというわんこがいる。そして大家さんは毎日着物でザ・京都な感じのおばさま。今、この下宿には大家さんとだんご(犬)と横辺くんの3人暮らしだ。2年をだんごとの散歩に費やした横辺くんだが、3年目になる時に大学から来た「長期在学者諸君へ」という手紙を読み、復学を決意する。
さて、これからまたあのわからない数学に対峙しなくてはならない。初日の講義で会った同級生はすでに3年目。また1年目からふりだしに戻った横辺くんがどのようにキャンパスライフと数学の授業を克服するかが描かれている。
本書、個人的にツボだった点がいくつかあった。内容は佐々木倫子さんの作品に共通するところがあり、「動物のお医者さん」や「heaven」が好きな方は楽しめるはず。そこに和山やまさん風なイラストが加わりより面白さに磨きがかかっている。
試し読みにと1冊だけ購入してみたが、これは続きが読みたくなってきた。