Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#929 ものすごく珍しい留学記~「赤と青のガウン オックスフォード留学記」

『赤と青のガウン オックスフォード留学記』彬子女王 著

博士課程。

 

円高が進み、なかなか簡単に海外旅行に行ける状況ではなくなった。毎日円高記録更新のニュースを見ているような気がするが、これだけ多くの外国人がやってくる様子に円高を実感している。海外出張がぐっと減る一方で、海外からやってくる方の頻度が増えた。

 

休みを取れるのはかなり先のことになりそうだが、今年こそ台湾行きたい!イギリス行きたい!アイルランドに行きたい!と次の休みについての希望だけは山ほどある。為替次第なところもあるが、夏にはパリのオリンピックで周辺国まで混雑することが予想される。本当は避けたいところなのだが、でも一番行きたいのはやはり夏のイギリス。イギリス行きたいなあ。

 

そんなことを考えていたらこの記事が目に入った。

 

彬子女王殿下の留学生活の思い出「エリザベス女王陛下とのアフタヌーン・ティー」 | PHPオンライン|PHP研究所

 

何かを検索していた時にふと出て来た記事なのだが、これがものすごくおもしろかった。SNSでバズった結果、重版となり文庫として再登場した故の記事だったと思うのだが、PHPでは試し読みというには結構な量を公開しているのでぜひご一読を。それが全て読み応えのある内容だったので早速Kindle版を購入する。

 

まず、彬子女王殿下とはどなた?なのだが、女王という称号はきっとヨーロッパの王室のようにとてもとても上のお立場に違いないと早速検索してみた。私が分かる限りのざっくり説明で言えば、昭和天皇彬子女王殿下のおじい様とご兄弟、平成天皇彬子女王殿下のお父様はいとこ、そして今上天皇とははとこ、と言うご関係らしい。

 

本書の楽しみ方は2つ。まず日本のプリンセスというお立場から出てくる一般人では知りえないロイヤルな世界が垣間見えること。もう一つはプリンセスのお立場でありながらオックスフォードでガチで勉学に励み、博士の学位を取得するまでの留学記としての読み方である。オックスフォードについての説明もかなり具体的なのでこれから留学を控える方にも参考になるだろう。

 

まずは華やかなロイヤルのお話がおもしろい。上のPHPの記事にもあるがなんとエリザベス女王にお会いしているそうだ。バッキンガム宮殿にご招待を受けた日本人なんてほんの一握りに違いない。このエピソードは著者がプリンセスであるからこそのお話であり、他の留学記では絶対に読めない内容だ。そして日本の皇室の日常についても垣間見ることができる。日々護衛の方がいらっしゃる生活はさぞ窮屈かと想像するが、逆にいつも人に囲まれている生活が当たり前だったので、留学生活で経験する「一人」に寂しさを覚えたことなど、確かに一般ではない生活がそこにある。

 

そして留学のお話がかなり読みごたえがあった。ご研究分野は日本の美術史で、明治時代に日本から持ち出された美術品がどのような意図で収集されたかを調べるとのことだった。ロイヤルであるがために、トップクラスの教授陣に迎えられるという点ではやはり特別待遇であるのかもしれないが、そのトップクラスのレベルに合わせて学業を修めるというのは大変なことだろう。遊ぼうと思えば遊べるだろうが、周囲の目もある中で5年も海外で遊び暮らすというのは難しいことであろう。むしろストレスで胃炎になるほどに学業に専念された姿に読み手のモチベーションもあがる。留学記を読むとモチベアップにつながることが多々あるが、本書もそんな一冊だった。

 

そして周囲の学生もみな優秀な人ばかりで、そこで友人を作ることができるのはお人柄だけではなく、周囲の会話に合わせられるほどの専門知識があり研究者として認められたからであろう。学問の話になると、優秀な学生の留学記と変わりなくすっかりロイヤルであることを忘れて没頭してしまうのだが、たまに出てくるロイヤルエピソードで「ああ、そうだプリンセスだった!」と思い出す。

 

留学は決して誰もが行けるものではない。金銭的負担も大きいし、何より学校側が迎え入れてくれなくては成立しない。真に優秀であれば奨学金を得るなどの方法があるが、どんなに行きたくても多くの人が断念せざるを得ない。ロイヤルの方であればその学費や生活費の出元を鑑み面倒なことを言う人がいたかもしれないが、著者に至っては今のお姿を拝見しても、日本の美術史の研究家として大いに国益となる活動をなさっておられる。

 

とにかく文章が素晴らしく、内容自体が面白い。きっと気さくなお人柄なんだろうなと日本のロイヤルに対する好感度がかなり上がる。というか、彬子女王のお話、もっと聞きたい!