Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#891 雨の連休、読書が進む~「若さま同心 徳川竜之介 11~13」

『若さま同心 徳川竜之介 11~13』風野真知雄 著

なんと続編もあるらしい。

本日よりの3連休は雨でスタート。今月初めの雪の日は羽田着のフライトが欠航となったりと関東でも大きな被害となったが今回は雪になっても積らないとのこと。すでに朝からしんとした寒さで今にも雪に変わりそうな空模様なので外出の際には気を付けたい。

 

さて、こういう雨の日は読書が進む。好きな音楽を流しながら心行くまで読書を楽しもう。後少しでシリーズを読み終える本作から連休の読書を開始。

 


天気さえ良かったら時代小説ゆかりの場所へ出かけようと思っていたのだが、雨なので仕方がない。しかしまだ暗いうちから雨音を聴きながらの読書はなんとも贅沢で豊かな気分だ。こういう時間がいつまでも続けば良いのに。

 

本書は時代小説の中でも江戸の末期が舞台となっており、時代小説の王道である武士の時代が終わる頃が描かれている。加えて主人公は徳川御三卿の若様である。あまり歴史に興味がなかった頃、徳川御三卿徳川御三家の違いについて区別が出来ていなかった。わかりやすいのは徳川御三家で、こちらは要は分家で徳川家康との血縁がある家柄で将軍家の次に家格が高い。尾張紀伊、水戸の三つでこちらはよく耳にする。

 

主人公である竜之介は田安家の11男だ。田安徳川家御三卿の一つだ。御三卿というのは八代と九代将軍がそれぞれの息子のために分家したもので、田安、一橋、清水家がある。御三家と異なるのは、御三卿の方が身内としての扱いがあり、それぞれ千代田の城内に邸宅があったことだろう。よって11男とは言っても竜之介の身分はかなり高い。とはいえ、御三家も御三卿も将軍家の跡取り問題を解決する道の一つとして創設されているので、なんとなく似たようなところはある。

 

田安家は御三卿の中でも家格が高く、竜之介はその末男として生まれた。母親は貴賤の身ということで竜之介が幼い頃に城を出たと聞かされていた。その母にも面白いエピソードがある。

 

賢い竜之介は京都で起こった尊王攘夷の動きや、鎖国時代が幕を閉じどんどんと日本が変わっていく様子を真摯に捉え「徳川の時代は終わる」と考えていた。竜之介が徳川の城を抜け出して同心見習いになったのは、将来この時代が終わった後の自身の進むべき道を思ってのことで「江戸を守る仕事はきっと将来も必要になる」という理由からである。

 

竜之介は徳川の未来を担う一人でもあった。というのも代々徳川家の中でも最も才のあった一子のみに密に受け継けられている剣術が竜之介へと継がれていたからだ。自ら葵新陰流と名付けるが、竜之介はどこか徳川の未来を剣術に重ねて見ている。世はもうピストルの時代だというのに、この刀は未来永劫続くこととなるのだろうか。

 

著者の作品が好きでいくつか読んでいるが、私はこのシリーズが代表作と考える。予想が追い付かないストーリーは読んでて全く飽きが来ない。とくに後半部はとんでもない状況へ落ちた竜之介が逆境を回避していく姿に読者も息をひそめて見守るような気持ちになる。

 

今の日本でそういう立場の人がぱっと思い浮かばないのだが、将軍家だからロイヤルではないけれども、政治的に大きな力を持った国一番の家柄の傍系で、11男ではあるけれどその家柄の姓を名乗る一族のメンバーだ。容姿端麗、賢く誠実ピュアで、強い。しかも武士の矜持を持ち合わせた真直ぐな青年が初めて町民の中で暮らすわけで、上の立場から庶民の暮らしへ身を置く様子がちょっと救世主っぽいところもある。

 

庶民の生活がわからない竜之介は江戸っ子らしい言葉遣いを真似てみたり、巷の料理を毒見無しに食べてみたりと全てが新しいものだった。そして町民にとってもどこか余裕があり、擦れたところのない竜之介は珍しい存在だっただろう。その互いのギャップが小説をより面白いものにしている。

 

幕末から明治へ。その当時のことに思いを馳せていたら、なんと本シリーズに「新」と名の付くものが出ていた。時代は逆戻りで同心見習いの頃の竜之介の事件解決にスポットを当てたもので、現在3巻まで出ていると言う。やっぱりファンが多かったんだろうなー。今はもう少し余韻を楽しみたいので続編を読む気持ちにはならないが、竜之介が恋しくなった頃に続編も読みたくなるかもしれない。