Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#887 傷や痛みを強さに替える~「若さま同心 徳川竜之助 6~10」

『若さま同心 徳川竜之助 6~10』風野真知雄 著

強さ。

 

この週末はずっと気にかけていたことの処理であっという間に終わってしまった。それでも次の週末は連休だと思えば、なんとなく気持ちに余裕が生まれる。ただ、せっかくの連休なのでどこかに行きたい気持ちもあり、今日中に連休の日程を決めるつもり。

 

自分の時間を自分のために使えるとなると、やっぱり読書を楽しみたい。このところ空き時間にマンガ読むのが精一杯だったので、今楽しみに読んでいる時代小説の続きを読む。

 


どんなに好きな作家であっても、どんなに好みのシチュエーションであっても、なぜか読んでいるうちに飽きてしまう作品がある。長編だと遅々として進まないストーリや、登場人物が多すぎて設定を思い出せなくなって面倒になるなどの理由が挙げられる。短編であれば端折りすぎて何が何だかわからない。オチがないなど、ちょっと苦痛に思えるくらいの読書を強いられることがある。

 

そんな場合でも私は割と最後まで読む派で、楽しめなかったのは自分の準備が出来ていなかったからと再読するようにしている。ピアノで言えばバイエルレベルの腕でハノンは弾けないように、読書も読み手の準備が必要だと思う。今その作品を読もうとする自分のレベルと本に含まれる内容がマッチすれば、その読書は読み手に大きな価値を生む。本小説は私にとってはまさにそのようなタイプのもので、とにかく1冊1冊が妙にフレッシュですいすいと心に溶けていくような心地よさがある。

 

主人公の徳川竜之助は身分を隠して南町奉行所にて同心見習いとして働いている。見習いでありながらすでに多くの事件を解決し、先輩方にも花を持たせ、加えて日々の生活に生き甲斐と幸福を感じている。

 

竜之助は徳川家に代々引き継がれている剣術を操るが、これは全ての徳川家の者に開かれているわけではなく、たった一人の後継者が細々としかし切れることなく引き継いでいる。この剣術は刀が風の力を帯びて強さを増すもので、その速さは腕の立つ武士でも抗うことはできない。

 

そして新陰流は何派にも枝分けされていることから、それぞれの流派が我こそが正統派と竜之助に挑もうとする。そんな中でも竜之助は冷静沈着に事件の解決を試みる。それこそが今最も竜之助がやりたいことだ。

 

この小説の何が面白いのかと言うと、竜之助の人柄にある。地頭の良さはさることながら、幕府の筆頭である一族の出だというのに全く偉ぶるところがない。そして座禅などを組んで達観しているかと思えば、町人の生活が気に入っており、心を開いて人と接している。守られた所で暮らしていたにも関わらず、竜之助は処世術を熟知しているようでありながら、それが全くの天然さから来ているというところが大きな魅力だ。自分が受けた痛みや傷から学んだ事柄が竜之介を芯のある大人に育てたのだろう。

 

もうプリンスなわけです。どこかの国の政治家の息子で、由緒正しい剣術を学ぶ真っすぐな心を持つ25歳の男性が身分を隠しながら下町に暮らし、刑事として町の平和に貢献している。しかも、イケメン。こうかくとなんとも少女漫画的だが、やっぱり剣の道の険しさが培った不屈の精神は少女漫画では表せないだろう。

 

あともう少しで読み終えてしまいそうなので早く先を読みたいけど終わるのがもったいなくて味わいながら可能な限り時間をかけて読みたい気もする。真の強さとは。社会人としてあるべき姿を竜之助から学んでいる気分。

 

竜之助ロスにならないように次に読む作品を探しておかなくては。