Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#766 幻に名前を付けると「怪」となる~「四谷怪獣殺人事件」

『四谷怪獣殺人事件』風野真知雄 著

耳袋秘帖シリーズ第17弾。

 

今回の出張は、途中で一度乗り換えがあった。深夜に日本を出発し、早朝経由地に到着する。そこで3時間ほどを過ごし、目的地へと乗り換える。経由地にて他の同行者と合流し、ともに移動する日程だった。本書は経由地での待ち時間に読み始め、現地到着の夜までに読んだ一冊。

 


あと数冊で本シリーズも読み終えるのだが、続編がいくつかあるようなのでそれも楽しみ。

 

さて、タイトルが不思議だ。四谷といえば、怪談であり「怪獣」ではない。なんだか動物続きな感じがするなあと思いつつも読み進めると、それは怪獣ではなく龍であることがわかった。龍にしても麒麟にしても、実在しないであろう生き物の話題が大陸から書物や見聞を通じて日本へと入り、それがまるで伝言ゲームのようになにか歪な形で人から人へと伝わった結果「怪獣」となった可能性もあるだろう。

 

その怪獣が出た。それも根岸が懇意にしている白川の御前、松平定信の親戚筋の家にである。田安徳川家は四谷に屋敷を持っていた。江戸時代、大名らは複数の屋敷を持ち、上屋敷中屋敷下屋敷、別邸、別荘などを管理していたが、この四谷の屋敷は田安徳川家下屋敷だった。主が普段使いにする住まいではないが、ここには主が特別に目をかけている側室の一人が住んでいた。

 

四谷の下屋敷に奇怪な事件が勃発しているという話は、白河の御前を通じ南町奉行である根岸に相談があり、いくつかの事件を抱えていた根岸は信頼する岡引き二人を下屋敷に滞在させ、その正体を確認することを提案する。

 

ここでおもしろいのがその岡引きだ。南町奉行所の与力や同心を支える岡引きは数多いが、根岸の傍に使える同心栗田が懇意にしている者らはいつしか奉行の手足として動くようになった。気さくな根岸の性格のせいか、奉行私邸にも入りともに食事をとることなどもある。今回その役割を与えられたのは神田あたりを縄張りとする梅次と根岸の手により江戸で初めての女岡引きとなったしめだ。この二人の組み合わせがなんとも楽しくて、途中途中笑いが出てしまう。

 

さて、この名家に現れた怪獣らには大きな大きな危険があるはずと判断した根岸は、徹底した調査を進めた。一歩進むたびにものすごく大きな罠が手元へ落ちてくる。毎回予想とは異なる結果に頭を抱える南町奉行所だったが、一つを解き、問題が二つへと膨らむ過程を繰り返し、最後にはついに確信をつくという読み甲斐のあるお話だった。

 

本書を読んだのはちょうど金曜日で、日本を出国してから経由地へ飛び、現地到着までものすごく長い長い金曜日を過ごしている時のことだった。1冊を読むのに随分時間がかかったなと思っていたが、時差のおかげで生じた長い金曜日の間にどうにか読了。