Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#876 世間知らずの曇りのない目~「若さま同心 徳川竜之介 2」

『若さま同心 徳川竜之介 2』風野真知雄 著

音の鳴る刀。

 

なんと2月には連休が2回もあるらしい。週休3日くらいが体にも心にも負担がかからず、個人の時間を充実させることもできる。みんなが旅行に行ったり、街に出たりすればお金も使うだろうし、良いこと尽くし!と個人的には推したい働き方である。あと毎月祝日が1日あると嬉しい。せっかく山とか海とかの日が出来たんだから、7月に空の日みたいな自然につながる祝日を作ってくれたら、きっと1票入れたくなる。

 

週休3日政策についてはいくらでも語れるのだ。しかし同僚は言った。「仕事しない人がますます働かなくなったり、残業代目当ての人が増えたりっていうマイナスもあるんじゃない?」そうか。確かにそうかも。しかし3連休は魅力である。月末の金曜日に早く帰ってもいいよっていうなんとかフライデーはいったいどこへ行ったのだろうか。

 

さて、そんな3連休の存在に嬉しくなっていたところへ資料作成の依頼が来てまたもや定時退社を逃すはめに。癒しを求め、帰りの電車でこの頃読んでいる本シリーズを読んだ。時代小説はもはや私にとってはビタミンよりストレスに効く存在になりつつある。

 

 

主人公の徳川竜之介は田安徳川家の十一男だがその存在は忘れられつつある。なにせ子沢山の父だったので後継ぎには困らない。末っ子の竜之介は母の身分が低かったこともあり、お城の中での存在感は薄かった。しかし徳川家に代々引き継がれている剣術を学ぶ後継者に選ばれたことで、真っすぐな心を持つ青年に育つ。

 

加えて竜之介は賢かった。むやみに徳川安泰とは考えていない。時代の流れによる変化に気が付いていた。竜之介の目には黒船がやってきてから日本に芽生える新しい息吹が見えていた。剣術だってこれからはピストルの時代なのだ。いつかは江戸の「ふつう」は時代の澱の中に埋もれていく。竜之介は自分を試したかった。旅を反対され、そこで叶えた夢が同心になることである。今は名を福川竜之介とし南町奉行所で見習い同心として街の中を駆け巡っている。

 

竜之介の剣術は新陰流という。それぞれの流派があり、徳川は江戸柳生による新陰流を継いでいた。その秘伝を得るには何年もの訓練を要し、やっと刀が扱えるようになってからが一層厳しくなる。秘伝の技に代々伝わる特殊な刀が合わさることで力が数倍になる。これを竜之介は葵新陰流と読んでいた。

 

新陰流のそれぞれの流派は己が一番と他を撲滅させようと策略し、その手は徳川家も例外ではなかった。城の中にいれば襲われることもないだろうが、竜之介は今、同心として市中にいるのだ。狙う側にしてみれば好都合!

 

しかし、やっぱり若様は強かった。のほほんとした世間知らずの同心竜之介からは想像できない強さである。まずやって来たのは熊本の新陰流だった。強さに加えて仲の良い三人が熊本から2か月かけてやってきた。途中の旅を楽しみ、より一層つながる心を持った彼らは藩命で竜之介を討たなくてはならなくなった。しかし個人としてはその剣術は哲学でもあり、生きる道しるべであり、才能であった。その真っすぐな心が竜之介に対峙するところは読み甲斐あり。

 

次に柳生一族がやって来た。これは本家とも言える新陰流の一派である。竜之介の母は生まれてすぐに城を出た。よって母の存在を知らずに育った竜之介は二十歳を超えた今でも母親という存在を心のどこかで求めている。母は今でも生きていると言う。爺や家の女中のやよいは母の存在を知っているようだが、何かいわくがあるのだろう。尋ねてもどこかはぐらかそうとする。この柳生らと竜之介とのつながりは割と深い。

 

竜之介の同心としての仕事はこの剣術の力に助けられるところも大きいが、温室育ちで常識を持ち合わせないことから、事件の本質を見逃さず小さな違和感に気付く能力が解決へと導いてくれる。地頭の良さもあるだろう。これらすべてがうまくミックスされ、竜之介の周りの人物は竜之介を認め、惹きつけられるのだろう。

 

本書はじっくり読んでこそ楽しい作品だ。著者の作品にはいつも軽い笑いが込められているのだが、本シリーズは笑い少なめだが心がほっこりする。大切にゆっくり読むとしよう。