Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#710 自惚れが生む悪~「居眠り磐音 30~32」

『居眠り磐音 30~32』佐伯泰英 著

尚武館。

 

Audibleの無料機嫌1か月の間にあれこれ聞いてみようと欲張っているせいか、小説を読む時間が減っている気がしないでもない。もっぱらビジネス関連の書籍を聴いていたせいか、小説を読むと気持ちがすーっと落ち着きその感覚が楽しい。

 

さて、この頃気に入って読んでいる本シリーズも折り返し点を過ぎ、ストーリーがどんどんと大胆になってきた。

 

 

磐音が佐々木家の養子となり、尚武館は安泰。穏やかな日々を過ごしている。磐音が江戸に来て以来の友人、竹村の娘が尚武館に奉公し奥を支えて、かつて磐音が日光で敵として戦った忍びの霧子も今や尚武館を己の家として日々稽古を続けている。

 

本書、佐々木家の謎が深い。まず、もと旗本というが今はその身分ではない。それはもう数代前に起きた話で、現主人の玲圓の代では語り継がれたものも希薄であるが、佐々木家は旗本時代の拝領地に今も住み続け、そこで直心影流という剣の道を教えている。江戸一とも言われる道場には各藩より剣術を学びに来る者も多く、身分に分け隔てなく剣道一本で暮らす日々だ。

 

そして誰もがすでに気が付いているが口には出さないことがある。佐々木道場が影に徳川を守っているということだ。今、玲圓と磐音は次代の家基が無事に家督を継げるべく日々見守っている。現家治の政治は田沼一族により腐敗が続き、まだ16ではあるが聡明な家基に期待をかける者は少なくない。そして家基の就任は田沼一族にとっては利を奪う脅威であり、かねてより家基の命を狙っている。

 

この「直心影流」がこの3冊のキーワードだろう。一つ一つの文字を見ることで、その佐々木家そのものが推測されるが、磐音は佐々木家の後継者としての一歩を着実に歩むとともに、その経営を引き受けるための準備を進めていた。今や佐々木道場は規模が大きくなり過ぎ、磐音にとっても信頼できる者を側に起きたいところだ。日光以来、道場を助ける弥助や霧子の忍びの他、ひょんなことから道場にやってきた存在も磐音の心の支えとなった。

 

佐々木道場には己の力試しにやって来る武士が多い。今で言うなら、巷で喧嘩の強い腕自慢がチャンピオンのいるジムで「戦わせろ」というような感じだろうか。白山はそんな力試しにやってきた者らが連れてきた犬だ。地元ではそれなりに強かったのだろう。3人の男が尚武館に挑んだ。派手な姿が己の過信を映しているのに、江戸への道中で拾ったという犬を連れているというところに愛嬌がある。さて、白山の元の主たちは、尚武館の足元にも及ばずあっという間に逃げ出した。門前に紐で結わえられていた白山のことはすっかり忘れて。白山は賢い犬で、尚武館の面々からもかわいがられ、番犬として尚武館の門の脇で暮らすこととなった。

 

もう一人は小田平助だ。尚武館で正月の準備の餅つきのあった日のこと、力を試したいと現れた。西国の方言がなんとも柔らかな印象を与える平助、歳は磐音より一回り上というところだろう。地元を出て長い間浪人生活をしつつ剣術を磨いたという。平助は槍を操る技で磐音と対面するも、磐音が勝つ。対戦した磐音は平助になにか深みを感じ、餅を食べていけと勧め、そしてそのまま尚武館で暮らすことを願った。こうして磐音の周りには強い味方が加わった。平助の強さは剣術だけではない。広く謙虚な心を持ち、驕らず優しさに溢れている。その落ち着いた様子に磐音は幾度となく助けられている。

 

悪政を牛耳る田沼一族は家基を支える尚武館が気に入らない。あの手この手で佐々木父子の命を脅かそうとする。しかし佐々木道場には勝てないことを知ってか、家基の周囲から力のある支援者を排除し始めた。御殿医桂川をはじめ、剣術指南をしていた磐音も西の丸には立ち入れない状況となる。そしてついに田沼の悪が世に蔓延った。家基、尚武館、全ての力が削がれていく。

 

今の世にも集団の中には己の利のみを考える悪がある。それは決して力などではない。だが周囲に影響を与えていると自惚れが勘違いを生むのだろう。そして地位というのは自惚れを生ませやすい。己の弱さや能力の無さを隠す地位に甘えることで悪が生まれるのではないだろうか。会社のあれこれを照らし合わせ、本シリーズにより一層のめり込んでしまう。

 

3冊だけでも大きな展開すぎてあっという間に読んでしまった。Audibleか磐音か、どちらを取るかで悩み中。