Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#663 いつかは陽が ~「余寒の雪」

『余寒の雪』宇江佐真理 著

短編集。

 

このお正月休み、ネット絶ちすることにした。年始は特にうっかりするとキッチン用品の専門店をチェックしてしまったりと物欲を刺激されることが多い。これ以上物を増やさないと決めているにも関わらず、気が付いたら福袋の内容をチェックするのに数時間を過ごしていたりと危険極まりない。とりあえずショッピング以外のことに目を向けるべく、冬がテーマの本を読むことにした。

 

本書も年末のAmazonのキャンペーン時に購入した一冊である。今は余寒どころか本格的な冬の真っ只中だが、読んでいて温かい気持ちに満たされた。

 

本書は短編集で7つの物語が収められている。それぞれのストーリーに関連性はない。舞台もそれぞれで、大雑把に江戸時代であるということが唯一の共通点だろう。タイトルともなっている余寒の雪は最後に収められており、確かに春が近づいてくるかのような、ほんのりと心が温かくなるお話だった。冬から春へ向かうような、今の時期にはぴったりの小説だったかもしれない。

 

印象に残ったストーリは3つあり、どれも女性が主人公の話である。1話目の「紫陽花」は大店の女将が主人公だ。女将は後添えで商家に入ったが、もともとは吉原の出身である。今の夫が先妻を亡くしなかなか心が晴れずという時期、友人が気晴らしが必要だと吉原へ連れ出した。当時花園として暮らしていたお直は、そこで夫と出会った。変わった客で来ても話をしたり、羽子板をしたり、それも真剣で気を抜くことはゆるされなかった。ある日、妻になって欲しいと告白され身請けされることとなり、花園は吉原を去った。商家に嫁いで10年以上が流れたある日、ふとかつての吉原が目の前に訪れる。

 

2つ目は「藤尾の局」というこちらも後妻として商家に入った女性のお話だ。先妻が二人の息子を残し他界し、1年もしないうちに後妻としてやってきたお梅のことを、息子二人は恨んでいた。それでも後妻として迎えることを進めた祖母が生きているうちは大人しく暮らしていた。ところが祖母も鬼籍に入り、息子らの自分勝手は度を越した。酒を飲んでは暴れ、商売にも全く関与しない。ついに怒った父親は息子二人を勘当する。幸い、夫とお梅の間には娘がいた。娘が婿を取ってお店を継げばいいと断言した父親に息子らは家を飛び出し、金が底をつけば店へ来て暴れ出す。

 

その日も息子らがやってきたので、お梅と娘は店の蔵の中にひっそりと隠れることにした。そうでもしなければ殴る蹴るの暴行を受けるからだ。蔵の中で、娘は「なぜ反論しないのか」と母を責める。しかし母には母の考えがあり、昔の例を出しながら娘を説く。それが全くの意外な話であったことから、娘は大いに驚き母の強さを知るというお話。

 

3つ目はタイトルとなった「余寒の雪」で、最も印象深かったストーリーだ。仙台藩で剣を学ぶ知佐は、自らの剣術に自信がある。いつか大奥の別式女になることを夢見ていた。服装も言葉遣いも男勝りで、20代に入ってからは是非嫁にという話も無くなってしまう。家族は皆、知佐の将来を心配するが、本人は決して嫁入りなどは考えていない。

 

そこで家族は策を練った。江戸の親戚筋での婚礼に行くとし、知佐を同行させることにした。しかしついた先は旅籠ではなく、同心の家であるという。小さな息子と母との3人暮らしで、知佐の実家よりは生活も貧しいようだ。そして知佐に婚礼の話をするのだが、なんとそれは親戚の婚礼ではなく己の婚礼であった。

 

仙台であればきっと根雪となっていたことだろう。江戸に共に来た叔父らは、知佐に一言も残さずに仙台に戻ってしまう。ひとまず、雪が解けるまではと江戸にとどまることになった知佐のストーリー。冬を耐える花々が春に咲き乱れるのを待つ姿のようで、読了後はそのタイトルの美しさが心に響く作品だった。

 

やっぱり冬に読む時代小説は心に染みますね。