Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#869 ツボで自制を学べるか ~「たすけ鍼」

『たすけ鍼』山本一力 著

痛みを癒す。

 

この頃ストレスが溜まっているのか「買わない」が守れない。只今出張中で、食事のために駅周辺のショッピングモールを利用しているのだが、行く度に何かを買ってしまいすでに予備バッグを使わなくてはならない状態だ。

 

駅ビルには2つの罠がある。まずは1階など避けられない場所にあるお土産屋さん。ここにはその土地ならではの食品が多く、ついつい調味料とか漬物とかを買ってしまう。この頃はなぜか毎回ご当地カレーを購入してしまい、ますます荷物が重くなる。あと会社のお土産お菓子なんかも結構ボリュームがあるので持ち帰るのが大変だ。次に駅ビルには大抵書店があって、すでに両手に荷物を持っているにも関わらず、また何か買ってしまいそうになる。この頃は自制が効いてきて、とりあえず書籍名だけチェックしてその場で買わない習慣が作れているが、結局後でAmazonで購入しちゃうので未読書籍がどんどん増える。まあ、特産品は出張のご褒美くらいに思って良しとしているが、それでも転勤の願掛けをしている身としては物は減らしていきたい。

 

ということで、目につくKindle書籍をどんどん読むようにしている。こちらはかなり昔に買った一冊で、確かこの本を読んだ影響で著者の作品をもっと読もうと購入した記憶がある。

 

 

とてもシンプルなタイトルに惹かれた。たすけ鍼だから、医療の力で世の役に立つ話であろうと想像しながら読み進める。

 

主人公はすでに還暦を越えた染谷という鍼灸師だ。幼馴染の昭年は医学の道へ進み、今はともに同じ長屋で診療院を開き、互いを補いながら暮らしている。ここまでは予想内。本書を読み甲斐のある作品たらしめるのは染谷の人柄にある。実直で、決して権威や富に屈さない強さから庶民の治療を第一とし、大店の依頼などは金を積まれても受けずにいた。

 

一つのことを突き詰めた人には独特の哲学があるようで、どこか達観した所がある。自身の生き方の軸にブレがなく、染谷の場合は深川の健康を守るという信念が全ての行動の基礎になっていて、その思いが人々にも伝わり多くの尊敬を集めていた。

 

辰巳芸者であった太郎との間には二人の子供があり、長男も医学の道へ進んだが今は別の医者の元で修行をしている。長女は母親と同じ辰巳芸者となった。今は太郎と二人、診療所を支え、そして無償で子供たちへ鍼灸を教えている。この子供たちが大きくなり、いつか染谷に代わり深川の命を守ることに寄与してくれることを染谷は望んでいる。まだまだ元気とはいえ、すでに還暦だ。未来を守るには、後継者を育てなくてはならない。

 

いろいろな病を抱えた人が診療所へ訪れる。どう治すか、その様子が読みどころの一つで、ツボを探して按摩、灸、鍼が施される。すると患者は次第に落ち着き、1時間ほどで快癒する場合もある。そして心に不安がある場合にも人々は染谷を頼った。自身で解決できない困りごとにも染谷は真摯に対峙した。決して放り出すことも、否定的なことも言わない。ただ聞いて、できるだけのことをするだけだ。それが多くの尊敬を集める結果となっていた。

 

まっすぐに生きていく、欲を張らずに日々を平穏に過ごすことは決して簡単なことではない。染谷の姿から「生き方」とは、を考えさせせられた。一度決めたことを何十年も守り続ける。途中でコロコロ目的地を変えることなく、常にそのことを考えながら暮らすことで芯のある人生が送れるように思えた。

 

読了後は座禅後のような落ち着きと満足感。どうして「買わない」ことを守れないのかも見えて来て、いろいろな意味ですごい本。ストーリーは決して飽きることなく、一つ一つの事件のつながりなどが面白い。

 

続編まで購入してあるのでこれは週末にゆっくり読みたいな。