Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#868 雪の結晶のようなデリケートさ~「雪の下のクオリア」

『雪の下のクオリア紀伊カンナ 著

デリケートな雪の世界。

 

引き続き北国におります。冬靴選びに失敗したというか、国内だから大丈夫と安心しきって予備の靴を持参せずに家を出てしまった。雪だけならまだ良いのだが、雨になるとちょっと辛い。普段は必ず準備しているのだが、今回は気が緩んでいたようだ。次の出張からは必ず予備の靴は持参しなくては。

 

せっかく寒いところに居るので、本書を読もうという気になった。こちらは以前に知人が教えてくれた一冊で、テレビ番組で推薦されていたというものだ。確かこちらを同時に買ったはず。

 

 

本書、繊細な感情のゆらぎの多い作品が好きな方にはたまらない一冊だと思う。大学生という年頃は大人なようで心の中に子供を宿しているようなところがある。その子供の部分に傷がある明夫と海が主人公だ。

 

2人は同じ大学に通っており、明夫と海の姉が小学校の同級生というから2~3の歳の差があるようだ。

 

同じ寮に住む二人だが、海が飲みすぎで倒れたところを明夫が助け、二人は知り合う。今の大学生ってこんなにもガラス細工のようにデリケートなのだろうか。あまりの繊細さにどう読み進めてよいのかわからなくなってくる。

 

海が笑顔を見せ続ける一方、明夫は表情が硬い。それが自分を守る方法で、一人で立って歩き日々を送るための防御策なのだろう。二人が持つ傷は子供の頃の悲しい思い出に由来するのだが、愛を切望するというところが共通するのかもしれない。

 

そんな複雑な心の滓が北海道の雪の世界に映えている。古い寮の様子や降りしきる雪は過去に閉じ込められている二人の姿を引き立てているようにも見えた。なんだろう、気軽にさくっと読めるタイプの作品ではないのだろう。きっと読む人によって琴線に触れるところが異なり、彼らの言葉や表情やエピソードなどぴたりと重なる場を発見すると、一気に作品が身近に感じられることだろう。

 

明夫は植物の勉強をしている。このシーンが好き。

 

そう!北海道は桜が梅より先に咲く!

 

誰かに手を差し伸べて欲しい人への一冊。