Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#578 英語圏の子供たちの”当たり前”が知りたい~「英米児童文化55のキーワード」

英米児童文化55のキーワード』白井澄子、笹田裕子 編著

英語圏の子供たちの世界。

 

必死に読み続けている積読の山はまだまだダイニングテーブルから消える気配がない。もったいないと思いつつも随分処分したはずなのに、なかなか減らないのがもどかしい。

 

さて、本書も一向に購入理由が思い出せない児童文学論関連のうちの1冊だが、思った以上に楽しく読め、さらに学びも多かった。

 

まず、本書は児童文学を読む際に絶対的に必要とされる「文化を理解する」知識を補うもので、もっと言えば「行間を読む能力」を高めてくれる1冊と言えるだろう。例えば、私たちにとっては畳の部屋というのは特に想像するに難しいことは何もない。しかし、実際に目にしたことのない海外の人にとって畳は謎でしかなく、もっと言えば靴を脱ぐことすら想像できない人だっているはずだ。それと同様に私たちには西洋の生活背景がわからない。子供が当たり前に習得する生活様式が異なるので、小説を読んでいて読み飛ばしている部分も多いだろう。

 

昔から辞書を片手に原書で小説を読んでいて、どうしても理解できない表現に行き当たると、聖書とマザーグースを疑う癖がついた。ことわざの場合もあるけれど、なんだこれ?と調べてみると、その2つが元ネタであることが多かったからだ。児童文学の場合には、家の構造や生活グッズがわからないから具体的に想像できないことも多かった。子供の頃は学校で百科事典でチェックする以外に探す方法が無く、翻訳された文章ともなると結局回答を得られず、ただ読み飛ばすしかなかった。

 

今ではネットもあるし、謎の答えに近づくことはたやすい。しかし、謎を謎と認識できなくてはならない。それを助けるにも本書は大いに役に立つ。55のキーワードは子供という概念に始まり、社会、生活、文化、世界観などを記しており、1つの項目が数ページと大変にわかりやすく読みやすい構造になっている。

 

これは個人的な誤解なのだが、児童文学というと18世紀以降のものが中心で、近代は含まないような印象があった。しかし本書は「児童文化」についての書籍であり、子供が登場する大人の作品からのアプローチもある。よって紹介されている作品も古典から最新の物まで多彩だ。時代や国を飛び越え、小説以外の映画、マンガ、音楽などのジャンルにまで広がっており、見ている世界がより広い。文化が社会を形成していく過程にも通ずるものがあり、英語圏を知る上で役に立つ情報が多かった。

 

子供の世界というのは世界共通な部分もあれば、お国柄という差異もある。それに気づかずに長い間読み進めていたのかと新たに学べる項目の他、「文化」という大きなくくりで俯瞰した読み方をすれば、児童文学に限らずニュースや大人の日常にも共通する見えない文化差についてもヒントを得られるところがあり、思いがけず収穫の多い1冊だったかもしれない。もし、子供の世界を描くことがあるならば、本書で紹介されている絵画、書籍、映画は非常に参考になると思う。