Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#867 仇を討つもの、討たれるもの ~「仇持ち町医・栗山庵の弟子日録」

『仇持ち町医・栗山庵の弟子日録』知野みさき 著

仇討ち。

 

週末から出張に出ている。北国に来ているのだが、久々に雪を見た。温かい室内でゆっくり読書でも楽しみたいところなのだが、早朝から仕事に出ねばならず残念な限り。これで温泉でもあったら最高なんだけどなぁ。

 

さて、勢い余ってまたKindle本を購入してしまったので、読書スピードを速めたい。購入しただけで満足してしまうことのないようにするには、まずは手元に未読の書籍を溜めないことが一番だ。買った時が旬というか、一番「読みたい」な気持ちが強いはずなので、その熱が冷めないうちに読むべきなのだろう。それが3桁もの数字になるほど未読書籍を溜めこんでしまうと、新しいものへ気持ちが回らなくなってしまう。

 

発酵食品のように冷暗所で長く置けば置くほど旨味が出るようなものではないはず。読み手の経験値が増えて、その本の捉え方に差が出ることはあるかもしれないが、それでも社会の変化に伴い書籍の内容が古くなってしまえば、内容の旬をも逃すこととなる。そのタイミングに適した書籍が必ずや出てくるはずなので、やっぱり早い段階で読み始める方が本にとっても読者にとっても幸せだろう。

 

ということで、まずは未読を減らすこと!楽しそうなものからどんどん読もうと本書を選んだ。著者の作品はすでにいくつか読んでおり、本書もその流れで購入してあったと思われる。

 

今回の主人公はお凛という娘だ。お凛、元は武士の娘だった。しかし父が他界し、後を継いだ兄が藩内でだまし討ちに合い、家は改易となってしまう。残された母と妹とお凛だったが、慣れぬ長屋生活に二人ともお凛を置いて父や兄の後を追うように鬼籍に入った。

 

一人残された凛は兄の敵を討とうとするも、そう容易なことではない。凛自身も騙され廓へと売られてしまった。しかし凛の気持ちは強かったのだろう。廓で出会った要という伊賀者に身請けされ、要より仇討ちのための武術を学んだ。

 

ある日ふらりと旅に出た要だったが、いくら待てども戻らない。そこで凛は江戸へ出ることに決めた。仇討ちの相手が江戸にいると知ったからである。そしてその旧藩の屋敷へたどり着くまでにはどうすべきかを考え、時を待った。そして下手な細工で近づいた先が栗山庵である。

 

栗山庵は町医者の住む長屋のことで、千歳という腕の良い医者が営んでいる。千歳には妻はなく、左腕のない佐助という少年と二人で暮らしていた。佐助の腕は火事の際に失われたそうだ。建物の下敷きになった佐助だったが左腕が挟まり、迫り来る火の手から逃げられずにいた。火事の最中、佐助を見つけた千歳はその腕を切り離すことで火事から佐助を救ったのである。それ以来、佐助は千歳の手伝いも兼ね、命を助けられた恩を返そうとしている。

 

本書はタイトルに(一)と書かれているのでこれからそれぞれの登場人物の過去に触れ、どんどん話が展開されていくのだろう。この先、本書のような感じで淡々と事件が語られるスタイルが続いてくれれば良いなと思う。というのも、こちらの作品を読んでいた時、最初の数冊で「もういいかな」と思ってしまったからだ。

 

 

女性が主人公の作品は色恋話が出ざるを得ないのかもしれない。それも人の心の機微として、人情の一つだと受け止めればよいのだろうか。個人的な好みの問題だが、時代小説はその人情が読ませどころの一つだと思うので、そこに恋愛まで加わるとお腹いっぱいになってしまう。上絵師の作品はそれがどんどん嫌になってしまい、結局途中でやめてしまった。本書は仇討ちという戦いのシーンがある分、少しクールに進むことを期待しつつ2作目を待ちたい。

 

ところで本書のあとがきに寄せられた内容を読み、著者がコロナ禍によりカナダでの生活を切り上げ、日本に帰国されたことを知った。遠い外国で資料などの入手も難しい中で長く作品を書いてこられた著者の才能には本当に驚かされる。しかも現地の銀行にお勤めだったというから、更にすごい。これから日本で執筆活動を続けられるそうなので、次の作品がとても楽しみ。