『心淋し川』西條奈加 著
直木賞受賞作。
今日で年末年始の長い休暇も終わり。完全にリフレッシュできたので、モチベを上げるためにも読書を続けたい。
さて、随分前に購入していた本書。2020年の直木賞受賞作品で時代小説がノミネートされたと聞いて購入したはずだ。気が付けばもう数年。やっぱり本にも旬があるはずなので、溜めずにさくっと読んでいかなくては。
本書は短編シリーズとなっており、谷根千が舞台となっている。ここに「うらまち」という貧しい集落があった。うらまちは「心町」と書く。洒落た町を想像するが、ここにあるのは流れのない澱んだ池と不揃いな長屋だけ。根津の遊郭は吉原に並ぶ規模を誇り、町は賑やかとはいえ荒んだ雰囲気が残る。それも恐らくこの池のせいだろう。この水は大名屋敷の方から流れて来るらしく、すり鉢の底のようにここ心町へと注がれた。水の流れが弱いため、澱みが匂ってくる。それが心町である。
決して美しい池ではない。どぶ川から流れてくる水のように、ここにはそれを受け入れざるを得ない状況の人たちが集まっていた。よって最初から重い雰囲気が漂っていて、全てを受け入れる覚悟を決めてから読み始めなければ、重さの圧に負けてしまいそうになる。状況がとても深刻なのだ。
心町の住人は江戸の底辺に住む人々だ。いや、家があるだけでまだましなのかもしれない。日銭を稼いでどうにか凌いでいる人々の日常が短編小説の形で綴られている。心町には茂十という差配がいる。長屋や周辺の人々の生活を支え、相談に乗っている。心町に住む人々は皆何等かの事情を持ち合わせており、互いをさりげなく支えあっている。
納められている短編は6つ。男たちは酒と博打におぼれ、女は針仕事や夜の仕事で小銭を稼ぐ。年頃の娘は心町から離れることさえできれば人生に光が差すと考えている。姉のように恋人と一緒にここを離れたい。その一心で針を動かす。
長屋では4人の妾が同じ家の中に囲われている。その近くには大店の妻と息子が没落して流れ着いた。息子は常に怒鳴り、母を詰る。しかし母はその心無い言葉を受けつつも健気に息子の世話をする。心町のようなところでも腕さえあれば料理屋も流行る。稲次は長屋の中で店を開き、心の安住を求める。そして楡爺の存在。
江戸の中でも忘れられたような町は場末の混沌とした重さが漂っている。貧困と戦うこともせず、生活の中になんら明るさはない。皆、必死に生きている。それぞれの不安や不満を抱え、池の周りに集まった人々はそのような生き方の中にも小さな癒しを見つけている。きっとそこに希望があるのだろう。
考えさせられる作品だった。
そういえば1月には23年の直木賞の発表があったはず。楽しみ。