Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#449 思わず足が深川に向いちゃいますよね ~「善人長屋 2」

『善人長屋 2』西條奈加 著

加助の善意が長屋を動かす。

 

さて、2巻目です。

 

 

1巻目は短いお話がいくつもあって、登場人物を紹介するような流れだった。一方2巻目は一つの大きなストーリーとなっており、善人長屋が一つとなって悪に対峙する話だ。

 

そもそも、善人長屋は通名通りの善人ばかりが住む長屋ではなく、一見普通の町人のようだけれど裏稼業を持った悪人ばかりが住んでいる。主人公のお縫も2巻目で一つ歳をとり、娘盛り。長屋の住民たちの悪行の中にも「善」があることに気が付き始めている。

 

さて、善人長屋には問題児がいた。加助は本来この長屋に来る予定の人物ではなかった。たまたま来ることになっていた人と同姓同名、元住んでいた地域名まで同じだったことから、差配一家はすっかり勘違いして加助を受け入れてしまった。一度受け入れてしまったので「間違いでした」と追い出すことも出来ず、そのままともに暮らすことに。その加助、何が問題かというと裏稼業を持たないことが大問題。しかも本物の善人だから問題はさらに増す。人助けを信条としており、長屋に次々と困っている人を連れてきてしまう。加助は長屋の住民の裏稼業については何も知らない。自分と同じく善人であり、世のため人のために尽くしていると考えている。長屋の住民も加助には悪行がばれないように暮らしている。

 

善人長屋としては加助のおかげで本当に善意に溢れる生活となり、世間の目をごまかせるような気もするが、それがかえって居心地が悪い。でもお縫にとっては加助の善意が長屋の悪を清算してくれるような、救われる気持ちの素となっている。

 

そんな加助が今回の話の軸だ。加助は妻と娘を火事で亡くしていた。たまたま外出していた加助が家に戻った時には一面が焼け野原となっており、妻と娘の亡骸すら探すことができなかった。家族への思いを断つために、縁の無かった深川に越して出直すことに決めたのだが、ある日八幡宮の祭りで亡くなった妻を見かける。追う加助、逃げる妻。これは何かあると勘繰った善人長屋の面々は真相を探り加助を支えるというストーリー。

 

探る中でのお縫の淡い思いの切なさも堪らない。どんなに江戸娘らしい気風の良さでも、一度心に同じ人の姿ばかりを描くようになれば、強さよりも弱さが目に付く。江戸のお話は斬った斬られたばかりではなく、人の心の繊細さが胸に染みる。

 

このシリーズは読みごたえがあって、朝から電車の中で没頭してしまい、ふと「出勤やめて深川まで行っちゃおうかな」と思うほど。頭の中に長屋の様子がくっきり浮かんできてしまう。そういえばニュース。その後どうなっているのかな。コロナ禍に完全に打ち勝つ日が来たら、また歴史を巡る旅を再開したい。