Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#447 こういうリーダーがいたらなあ ~「善人長屋」

『善人長屋』 西條奈加 著

千七長屋には裏の顔がある。

 

年末年始に長く休んでしまったせいか、気持ちがなかなか通常業務に追いつかない。困った困った。そんな時は小説で気分転換が一番!ということで、ブラックフライデーの時に山のように購入したKindle本の中から、西條奈加さんのシリーズものを読むことにした。現在3巻まで出ているから楽しく読んでいるうちに日常に慣れて来ますように。

 

タイトルの善人長屋は実は属名で、本当は千七長屋という。差配を務める千鳥質屋にちなんだ名前だが、通名のほうがすっかりメジャーになってしまったそうだ。

 

主人公のお縫はまだ10代半ばで実家の千鳥質屋を手伝っている。千鳥質屋は祖父の時代に深川に移り、現在の家主の儀右衛門は3代目となる。母のお俊は美貌で有名だが、その美しさを継いだのは5歳上の兄のみ。お縫は3人兄姉妹で、一番上の姉も、美形の兄も、すでに家を出ている。

 

実はこの善人長屋と呼ばれることをお縫は快く思っていない。むしろ言われる度に嫌な気分になるほどだ。というのも、住人はみな善人どころか裏稼業を持つ悪人ばかりが集っているからだ。実家の質屋は一見普通の質屋だが、裏稼業として盗品を売りさばく窩主買いを営んでいる。古株の髪結いも情報屋。美人局やら、巾着切りやら、代筆やらの裏稼業を持ちながらも、表の仕事で生計を立てているどこにでもいる町人然として暮らしている。が、裏の仕事のほんのり後ろ暗い部分を知っているお縫としては「善人長屋」と言われる度に苦虫を嚙み潰したような顔になってしまうようだ。

 

ストーリーはいくつかの短編で組まれており、それぞれの住人の裏稼業を紹介するような流れになっている。特に面白いのが唐𠮷と文吉兄弟だ。二人は季節の品を売る仕事をしているが、裏稼業は美人局。文吉がおもんという絶世の美女に化ける。二人はお縫とも年が近く、千鳥質屋にも頻繁に顔を出す。

 

父の儀右衛門の人柄と知性もあって、長屋はしっかり統率されている。1巻目はまずは長屋の自己紹介のようなお話。さて、この話をどう日常に活かすか、だ。儀右衛門はしっかりと長屋の住人を守っている。表稼業で暮らしているという「前提」をちゃんと支えつつ、裏稼業でもリーダーとして悪の部分が行き過ぎないように管理もしている。作戦はいつも儀右衛門が考えており、たいていそれにミスはない。リーダーとしての人柄も良く、安定感がある。仕事もなー。こういうリーダーがいたら俄然やる気が出るのになー。

 

本書は悪人が山ほど登場するが捕物のお話ではない。悪事を働くことを裏稼業としてはいても、やはりそこにも人情があり人を助けるためのものであることが多い。それぞれ専門分野が異なるから互いの距離の取り方も絶妙で、儀右衛門の差配としてのまとめ役のおかげか、事はいつもまるく収まる。それがどんな手段であっても人を物理的に傷つけないだけではなく、心にしこりすら与えないような温かさがある。こういうところが時代小説の良いところなのよね。

 

さて、少し心に栄養が注がれたので3冊読み終わるまでに社会復帰できるようにしなくては。