Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#787 ささやかにアニメ化を希望してみる~「裏庭」

『裏庭』梨木香歩 著

子供の成長の傍らに。

 

ああ、なんと月日の経つのの早いことよ。今年も2/3が終わってしまうと思うと、気持ちが焦って仕様がない。思えば2月頃から日本はどんどんと海外からのお客様を受け入れ始め、ドアが開いたと思った途端に怒涛のように人が来た。加えて海外でのビジネスがコロナで止まっていた分の反動からか一気に流れが変わってきた。私のような企業の末端で喘いでいるような立場ですら駆り出されるような状況なので、23年いっぱいはこんな状況が続くのかなーとも思っている。

 

気分転換したい反面、なんとも言えない焦りにずっと付きまとわれていて落ち着かない。あれもやりたい、これもやりたいと個人的な欲求もある中、喫緊で対処すべき仕事上で必要となる知識の補填など、これがまた勉強が必要で一朝一夕で身に付くものではないことから多くの時間が割かれてしまう。ああ、きっとこれが焦りの原因だろうな。

 

ということで、読書のスピードもこの頃は駆け足調だ。速読なんて技は私には無理だが、それでも読む速度が少し上がっているように感じるのは、緊張によって集中力が増すからだろう。

 

本書も内容が非常に興味深かっただけにあっという間に読み終えた。この間著者の作品を読み、しばらく読んでいない他の作品も読みたくなり、早速初期の作品に手を付けた。本書のタイトルは覚えていたし、初期の作品であるということも覚えていたにも関わらず、内容が全く思い出せない。タイトルに「庭」が付くから、バーネットの『秘密の花園』的な児童文学だろうというくらいのイメージで読書を始める。

 

その予測はまんざら外れてもおらず、確かに庭を中心に世代を超えた子供たちが織り成す「今」がテーマだった。そして庭自体は未来を創造する原動力とも言って良い存在だ。庭というのは植物があり、成長の象徴でもあるだろう。子供が庭造りを通して一歩大人になっていく様子は本書や『秘密の花園』以外でも見ることができる。

 

本書の主人公の照美は双子だった。過去形なのは、双子の弟の純を亡くしているからだ。純は生まれた時から障害を負っていた。しかし名前の通りにピュアな男の子だったのだろう。純の不在は、照美一家の心に大きな穴を開けたままで、今も触れることができずにいる。

 

照美の住む町には古い洋館があった。名をバーンズ邸と言う。かつて英国の貿易商の一家が住んでいたそうだが、今は空き家になっている。バーンズ邸には素晴らしい庭があった。照美たちはよくその庭園に潜り込んで遊んでいた。そして庭園で遊んでいたのは何も照美達だけではない。照美の両親もまた、この庭で走り回ったり、笑い合ったりしていたから、沢山の子供たちがこの庭を慈しんできたことだろう。

 

照美の両親は純が他界してからは仕事にのめり込んだ。両親が運営するレストランの仕事につきっきりで、照美はいつも留守番だ。その寂しさを埋めてくれたのは学校の友人、綾子のおじいちゃんだった。綾子の家に遊びに行っては、おじいちゃんから昔話を聞いた。そして、おじいちゃんも照美と同じようにバーンズ邸に行き来していたことを知る。

 

おじいちゃんは決して照美のように抜け穴からそっと入ったわけではない。おじいちゃんが子供の頃にはバーンズ家の人たちがここに暮らしていた。そしておじいちゃんのお姉さんがバーンズ邸で働いていたという。その時の思い出はおじいちゃんを通じて照美の心へと響く。

 

そこから庭が開いた。バーンズ邸には代々伝わる未知の庭がある。それを裏庭と呼ぶがそこへは誰もが簡単に出入りできるわけではない。ここからが少しだけバーネット風。今、あらたにバーンズ邸の庭が躍動し始めるのだが、その鍵が何であるかは行く通りもの答えがある。

 

先に書いた通り、確かに本書は児童文学の体ではあるが、これは大人への強いメッセージでもあるようだ。きっとすでに沢山の論文や考察レポートなどが出ていることと思うが、象徴となるべき事象があちこちに散りばめられている。と、ここまで書いてふと思ったのは「これはジブリ化できる作品かも」ということである。バーンズ邸は町の高台にあり、自然あふれた庭園があり、池もあるほどの広さだ。そこには魔法のような透明なベールがかけられているようでもあり、廃墟ながらも生き生きと脈打っている。これ、アニメ化したら面白いと思うんだけどなあ。

 

それにしてもよい作品だった。どうしてこの作品の内容をすっかり忘れていたのだろう。やっぱり10年くらい経つと色あせてしまう小説もあるのだろうか。それとも人間の心に残る小説の数は決められているのだろうか。これはきっとまた近いうちに再読する予感。

 

さて、明日から9月。また少し旅して参ります。