#829 深い夜のお供に~「家守綺潭」
『家守綺潭』梨木香歩 著
湖。
今回の時差ボケは少しヘビー。夕方になると目が冴えてしまいなかなか眠りにつけない。やっと眠っても2時や3時には目が覚める。日中昼寝もせずにいたにも関わらず、夜になると力が湧いてくるのはどういうことだろう。この週末でどうにか調整しなくてはと思うのだが、それだけあちらでの生活が充実していたからだろうと思うことにした。
眠れないので本を読む。この頃また梨木香歩さんの小説が読みたくなり時系列順に読んでいる。この作品は連作というかつながったお話の1つ目で、時代設定は大正から昭和初期、場所は琵琶湖のそばかと思われる。
綿貫は今、友人の家に住んでいる。正確にいうと友人の高堂はすでに鬼籍に入っており、彼の両親から家守を頼まれたことからここに暮らすこととなった。物書きとして生きている綿貫は安定した収入がない。それを知ってか高堂のご両親はこの家を守ることで綿貫の生活を細々と支えている。
ご両親は常に庭を手入れし、季節ごとに美しさは際立っていた。百日紅の木が淡い色の花を咲かせ、疎水が引かれた池は鏡のように空を映す。しかし綿貫が暮らすようになってからはその庭はどんどんと元の力を取り戻し、野生の魅力に輝き出した。生きる力にみなぎる庭。
どちらかというと綿貫は物怖じしないタイプの若者だ。不思議なことが起きても「そんなこともあろう」と悠然としている。だから居間の掛け軸から高堂がボートに乗ってやって来た時も決して慌てはしなかった。
その掛け軸には水辺の鳥が描かれており、水辺であったからこそ高堂はボートでやってきたのだろう。ボート、それは高堂が命を落としたきっかけでもある。彼は湖でボートに乗り、そのまま行方不明となった。忽然と消えた高堂は沈むと戻ることはないと言われる湖の中にいると皆は考えている。突然現れた高堂に、綿貫は「ああ、だからボートか」と疑問を抱くこともなく迎え入れた。そもそもここは彼の家なのだ。
故人が訪ねてくること自体がすでに奇怪であるが、それをきっかけに綿貫は意図せず不思議の世界へ深くかかわることとなる。相棒のゴローは突然やってきた犬で高堂に飼えと言われてそのまま居ついた。賢く忠義に厚く、隣家のおかみさんにも可愛がられている。庭の木々は綿貫へなつき、池には河童がやってくる。
しんと静まった夜、目の前にその世界が広がっていくような錯覚を感じつつ読書を進める。妖精の物語を和風に仕立てると丁度本書のようになるかもしれない。
とにかく日本語が美しくその独特の世界は湖の穏やかさに酷似。