Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#739 もはやゴールデンウィークが遠い昔のことのような気がします ~「家と庭」

『家と庭』畑野智美 著

家族の絆。

 

ゴールデンウィークで本宅に帰った時、庭の話になった。今現在そこに庭があるわけではなく、「庭が欲しい」という話だ。面白いのは「庭が欲しい」と話す相手それぞれが全く異なった「庭」のイメージを持っていたことで、広さや塀や垣根の種類、デザインが多様。加えて正解がないせいか突飛な意見も沢山あった。それは庭ではなく畑では?なものもあったし、果物のなる木や桜は人気があった。ちょうど英国の戴冠式の直前だったこともあり、BBCなどで見られるイングリッシュガーデンを見つつ、あれこれ妄想するのが楽しかった。

 

ところで日本庭園を自宅の庭で作るには相当な広さがなくては実現できないのでは?という疑問がある。海外にある日本式庭園を見ると、灯篭やししおどしなどのアイテムで日本風を装い、竹や紅葉が奥に控えている風といえばわかるだろうか。「ああ、日本だよね」なあれこれをただ並べるだけでは日本庭園にはなり得ないように思う。そこに秩序があり、何もない空間とのバランスが整ってこそだと思うので、寺社の庭のような静観さにはある程度の広さがいる。2畳くらいの小さな庭ではどこまでのことができるのだろう。

 

そのうち庭のある家に引っ越したいという気持ちを固めたところでゴールデンウィークも終わってしまい、帰りの移動時に本書を読んだ。いつだったかセールの時にこれまたタイトルに惹かれて購入したことを思い出し、ゴールデンウィークのまとめとして読んでみることにした。

 

本書は上に書いたようなインテリアやガーデニングの話ではない。下北沢にある一軒家の話だ。主人公の望の家は祖母、両親、二人の姉と妹一人という7人家族だ。今は祖母は入院中、父は海外赴任中、長女が娘を連れて出戻り6人で暮らしている。もともとこのあたりで暮らしてきた家で、他にアパートを数軒管理している。いわば地主さん一家の跡取息子である。家に財産があるせいか、望は大学を出てから定職にはつかず、学生時代から勤めているマンガ喫茶のバイトを続けている。

 

この望一家を中心に、下北沢の生活の一場面を映し出すような作品だ。読んでいるとなんとなく映画になりそうな気がしないでもない。どこにでもありそうだが、ちょっと変わった側面を持ち合わせているような、日常。共感できる部分も多いし、羨ましいと思える部分も多々あった。

 

羨ましいと思える部分、それは人と人のつながりだ。家族で暮らしていて、それぞれ仲が良い。お金に困ってガツガツしている面もないし、悪な部分が全く見えない。姉を呼ぶ時、「葉子ちゃん」と20代半ばの男性が「ちゃん」付けで身内を呼ぶのは、望の環境が何か緩やかなものに守られている安心感の内にあることを連想させる。幼馴染もそばにいるし、自分を良く知っている近隣の人々とのコミュニケーションは、今ではそう簡単に手に入るものではないだろう。

 

夕焼けが似合いそうな街の様子が目に浮かぶ小説。