Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#577 割れっぷりがすごすぎる~「ルビンの壺が割れた」

『ルビンの壺が割れた』宿野かほる 著

顔か壺か。

 

夏、日焼け対策を怠ったまま車の運転をしていたせいか、右腕とか右頬にシミが出来ている。これはどうにかせねばとAmazonで美白関係の化粧品を購入した時、おススメとしてこちらの作品があり、Kindle Unlimitedでも読めるし軽い気持ちでダウンロードした。たまたま長く電車移動することとなり、早速本書を読み始めた。

 

まず、あとがきを読むまで「ルビンの壺」が何のことか知らずにいた。

ルビンの壺 - Wikipedia

そう、これです。ちょっと大きめに置いてみた。黒に注目すると左右に人の横顔があるようにも見えるし、ベージュに注目すると装飾の施された食器のようにも見える。

 

もし、ルビンの壺を知っていたら、読み方もきっと違ったかもしれない。いや、知っていても本書のものすごいインパクトには度肝を抜かれたに違いない。

 

普段はあまり著者以外の方が書いたあとがきは読まないのだが、今回はどうにも気になり目を通した。そこで「ルビンの壺」が上の絵のことであるということを知り、しかも表紙にもその絵が、しっかりと割れた壺の絵があったことに気が付いた。あとがきによれば、本書に対する感想は賛否両論あったようで、それはやはり「新しいから」という理由が最も適しているように思える。あえてジャンル分けし難い作品だ。

 

本書は書簡小説で、30年前に結婚を約束していた二人がFacebookを通じて互いの存在を再確認、その後のFB内でのメッセージのやり取りが綴られている。男性がかつての婚約者の姿をFBで発見し、久方ぶりと連絡を取る。しかし女性側からの返答は無く、男性側から数度メッセージを送った後に二人のやり取りが始まった。

 

二人の共通点は学生時代を同じ大学の演劇部で過ごしたことで、その後恋愛関係にあった。二人は結婚を約束するも、結婚式当日、彼女は式場に姿を現さず忽然と消えてしまう。男性はずっとその女性のことを考えるが、結局30年経ってようやく連絡が取れる。彼女の行方は人伝えに聞いた噂のみで、それは関西で結婚したという話だけだった。過去の思い出話が進む中、ゆらゆらと距離を縮めたり離れたりを繰り返す。

 

書簡小説は決して新しい分野ではない。だが手紙というのはプライベート感が最も高いものなので、どこか秘密めいたところがあり、読み手は全く背景のわからないところを手紙の内容のみを頼りにパズルを埋めるかのように中身を埋めていく。本当の自分がせきららにつづられている様を覗き見るような感覚がある書簡小説のはずなのに、これはまた純愛でも純文学でもない異様さがある。

 

手紙のやり取りが進んでいる間も「きっと会おうっていう話になるのかな」「昔の謎が解けるのかな」と期待しながら読み進めるのだが、なかなか様子が見えてこない。そして最後に「ハメられた!」みたいな、いきなり車がパンクして車がスピンしたくらいの衝撃だった。

 

あとがきでもジャンルの絞れない、というより今までにない流れを生んだ作品だとある。だからこそ評が割れたのだろう。個人的には面白かったし、書簡小説の亜流という考えには同意できない。また読みたくなることを考え、記録はこの程度にとどめておこう。著者の他の作品も是非読んでみたい。