Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#769 ある意味あの歌ですよね~「銀座恋一筋殺人事件」

『銀座恋一筋殺人事件』風野真知雄 著

耳袋秘帖シリーズ第20弾。

 

時代小説を読むようになってからすっかり江戸基準で物事を考えるようなところが出てくるようになった。例えば、こうして海外に出張に来ていると生活の中に昔の建物だったり歴史的なモニュメントが目につく。ヨーロッパだとやはり大戦に関連するものが多いのだが、歴史に名を残す人物を称える物もあり、その年代を見て「江戸なら…」と照らし合わせてみたくなる。また、海外に紹介されている日本文化の中には浮世絵などの文化価値の高い作品もある。テレビを見ていて江戸時代のものが紹介されていたりすると、見ているこちらも鼻高々で「そうなのよ。江戸は良いのよ。」と関連する時代のあれこれを追加で調べては「帰ったら行ってみよう」などとメモをまとめたりしていた。

 

滞在中は朝6時半に毎朝同じメニューの朝食を取り、7時半に宿泊先を出発する。帰りはだいたい9時くらいで、それから日々の作業をまとめ、眠りにつくのが23時頃。その頃には日本が稼働し始めているので、少しだけ簡単な会議をする。時差のある国に駐在するのは大変だと心底体感した次第である。

 

さて、本書はそんな寝る前のお供として読んでいたので、読了までに1週間くらいかかっていた。とにかく体が疲れているので数ページですぐに眠くなってしまう。しかし南町奉行所のお調べの様子が気になり、毎晩瞼が重くなるまでずっと読んでいた。

 

耳袋シリーズは、本書が最後の1冊としてアマゾンにはグループ分けされているがWikipediaの著者の蘭を見てみると、この後に4冊が続くらしい。

 

さて、この頃南町奉行所は大悪党である暁星右衛門を追っている。すでに実在しない人物だとか、すでにこの世にいないなど、噂だけには事欠かない。推理を重ね、一つ一つの可能性をつぶしていく作業を重ねるも、なかなか光が見えずにいた。

 

南町奉行根岸肥前守は自身の経験値からものを見る目を鍛えた人物で、部下からの報告を聞いただけでも答えを見いだせる人物だった。その根岸ですらこの事件の流れが見えない。しかし鍵の存在に気が付き、姿が見え、場所が予測できさえすれば、一気に事を動かせることはわかっていた。

 

根岸の傍にいる部下は岡引きとともに事件を追っていた。彼らはとても優秀で、中でも同心である栗田を助けていた辰五郎は真面目な人柄もあってか事件の芯にも果敢に迫っていくようなところがあった。辰五郎は惚れぬいた恋女房と結婚したが、まだ子供はない。そしてその嫁の母親が最近根岸より十手を預かった江戸初の女岡引きのしめである。本当は清香という名前にしようと本人は考えていたようだが、しめ親分などと呼ばれ始めている。

 

その辰五郎が町で変わった話を聞いてきた。日ごろから町の声を拾うことを心掛けている辰五郎だが、特に駕籠屋の話は大きなヒントとなっていた。その頃、江戸には「いくじ」が出るという噂があった。「いくじ」は海に出るとあるので何か大きな魚かなにかかと思っていたのだが、調べてみると「イクチ」というWikipediaの項目を発見。この内容によると怪魚のことらしい。

 

 

事件を調べていた辰五郎は、駕籠屋から「半身を運べる駕籠」の話を聞く。これは事件に関係するのかしないのか、とにかく根岸に報告をして事件との関連性を調べていくことにした。

 

それにしても江戸の人々の想像力はたくましい。イクチまたはいくじについてネットに出てくる情報を見ると、ものすごく体が大きく、近づくと表皮から油のような体液が船に付き危険だとか。ねばねばと船に絡み、とにかく滑る。ウナギのような形とあるが、大蛇のような姿を想像したのだろうか。海に囲まれた日本ならではの発想だろう。ものすごく斬新なものを想像してしまう。

 

さて、南町奉行所の前途は多難ではあったのだが、事件は一つのきっかけからどんどんと答えが見えてきた。20巻目にして大きな山を一つ上ったというところだろうか。恋模様が横恋慕となり、最終的には恋一筋となった。これも銀座の恋の物語。