Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#765 ただいま戻りました~「馬喰町妖怪殺人事件」

『馬喰町妖怪殺人事件』風野真知雄 著

耳袋秘帖シリーズ第16弾

 

6月の後半から7月の末まで、長く携わってきたプロジェクトのため出張に出ていた。場所はとあるヨーロッパの国で、滞在中は雨が続き何より寒かった。いくらヨーロッパが日本より北にあるからとは言っても7月はさすがに夏のはず!とスーツケースの中の荷物はほぼ半袖で、むしろヒートテックを持参すべきだったと後悔したほどだ。朝の気温は毎日10度以下。そして夜の10時過ぎてもまだまだ明るい日々なので、最も陽が高い時刻が夕方の17時頃となる。その頃の気温でだいたい15度くらいだから日本の秋のような気候である。現地の人によると、今年は異常気象で雨風が激しいとのことだった。

 

一応上に羽織るものと折り畳み傘は持っていたけれど、午前中はずっと寒さに耐えながら現場を行き来していた。現地にいる間、携帯には熱中症注意の喚起メッセージが何度も送られてきて、寒さの中で「暖かい日本に帰りたい」と変なホームシックになっていた。やっと日本に降り立ち、このじっとりとした暑さがむしろ嬉しかったくらいだ。

 

いつもは旅行の前に読みたい本をKindle版で購入して万全の体制を取っての移動となるのだが、今回は出張中に本を読む時間など取れるはずがないと事前にわかっていたのですでに購入済の本を可能な限りたくさん読もうと決めていた。本書は日本を出国し、経由地までの間に読み終えた一冊。本シリーズもあと数冊なので早く読んでしまおうと思っていたので丁度よかったかも。忘れないうちに読書内容を記録しておこう。

 

 

今回の事件の舞台は馬喰町である。馬喰町とかいて「ばくろちょう」と読む。馬を喰うと書いて「ばくろ」だなんて普通は簡単に読むことはできない。今まであまり地名の由来など気にせずにいたが、時代小説を読むようになり歴史に関心を持つようになってからは由来などを知ることがどんどん楽しくなったので、この馬喰町の名前の理由も「なるほど」と思えた話の一つであった。

 

昔、博郎という仕事があった。牛や馬を扱う仕事で、「ばくろう」と読む。このあたりは江戸時代には馬場があったようで、博郎たちが多く暮らした町を指して「博郎町」と呼ぶようになったのだが、それがいつの間にか「馬喰」の字を当てるようになったらしい。もしかすると、江戸時代にはイノシシなどの肉食が始まっていたというから、体力を使う職に就く人たちがこのエリアで肉食をしていたのかもしれない。それゆえに喰の字が加わったのか?などと推測するのも歴史に触れるということだろう。そんなことを考えるのがものすごく楽しい。

 

さて、その馬喰町で何があったかというと、これまた獣の事件である。

 

馬喰町は日本橋馬喰町といい、ここは奥州街道の出発地でもあったらしい。出発地ということは宿も多く、特に江戸にて裁きを控えた者らが宿泊する公事宿が多くあったという。今でいう弁護士のような役割をする人たちを公事師と言い、彼らもこの近くに住んでいた。

 

ある日、南町奉行の根岸もよく知る公事師がなんとお白洲での裁きの際に何者かに襲われ命を落とした。お白洲でのことなので、周りには多くの奉行所役人の目もあったはずだ。それが刀でもない異様な傷が致命傷となっていた。その傷は刀などの武器によるものにしては残忍で、まるで獣に喰いつかれたかのような跡であった。

 

その頃、マミという謎の獣の噂が江戸中を駆け巡っていたから奉行所内は騒然となる。トラもヒョウもピューマも江戸には存在しなかったし、マミの目撃情報から「猫っぽい何かものすごく怖い生き物」として噂は流れている。それが馬喰町あたりにしばしば現れるという。

 

根岸の捜査は事件のみに注視するのではなく、日ごろ江戸で起きている不思議な事柄にも注目することで、未然に犯罪を抑えたり、すでに起きた犯罪のヒントを得るなどの意味もあった。お白州での謎の殺人、得体のしれない動物マミも根岸のアンテナにひっかかり、奉行所の面々は調査を続ける。

 

この頃根岸の手足となっているのは4名で、もとより奉行所の同心である栗田と根岸の部下である坂巻に加え、同心からは椀田、部下からは宮尾というものも調査に加わり始めている。それぞれのキャラクターが異なるので以前の作品より調査の方向性が深くなったような楽しみがある。宮尾は坂巻とは正反対のタイプで、二人とも整った容姿ではあるが、宮尾のほうが女性の扱いがうまい。椀田も栗田も同心としての戦う術に長けており、特に椀田は怪力で柔道では奉行所内で右に出るものがいないほどだ。

 

深夜便での出発だったので、機内の読書ライトの下でひっそりと読書する。出張前の景気付け。