Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#767 品川といえば~「品川恋模様殺人事件」

『品川恋模様殺人事件』風野真知雄 著

耳袋秘帖 第18弾。

 

寒い寒いと言いながら夜の7時頃に仕事を終え、食事をしてから宿舎へ戻ると夜の9時頃。それでもまだ外は明るく、就寝準備をしてからその日の報告書などを書き始める10時を過ぎるとうっすら外が暗くなる。「ヨーロッパのホテルは部屋が暗くて嫌」とう話を聞くことがあるが、夏であればベッドサイドのライトだけで十分なほどに明るいのだから、それほど明かりは必要ないのだろう。でも冬なら陽が当たる時間はほんの数時間で、確かに真っ暗になってしまうのかもしれない。

 

丁度現地に到着したのが金曜日で翌日の土曜日は半日で仕事が終わったことから、少し自由な時間ができた。今思い返すと到着直後の土日以外は毎日出勤することになったのだが、その時は各自自由時間を満喫すべく「今日はファーストフードで簡単に済まそう」とマックに立ち寄りテイクアウトで食事を調達した。ポテトを齧りながら読んだのが本書で、フィレオフィッシュのセットが本書より高かったことに驚きながら読書する。

 

 

南町奉行である根岸には傍に控える部下がいる。部下は二種で、もともと根岸家に仕えていた者を奉行に任命されたことから奉行所勤務として連れてきた数名と、南町奉行に着任してから根岸が人柄を見て選び抜いた同心数名が常に根岸の傍にいる。

 

根岸家に長く務める坂巻は南町奉行所に来てからは同心の栗田とともに調査にあたっていた。坂巻は二刀流を扱い、利き手が左手であることからその技には他の想像を超えた強さがあった。加えて容姿端麗で女性からは憧れの目でみられるも、なぜか女にもてない。むしろ容姿はどちらかというとかなり劣る栗田は奉行所に勤めていた美女のお雪を嫁にしているというのに、坂巻は全くもてない。しかもすぐに人を好きになるのに、ことごとく振られまくる。

 

そんな坂巻は昨今恋をしている。以前の捕り物の下手人であったおゆうのことが片時も頭から離れない。品川で偶然出会い、それからは神楽坂で茶屋を出すようにという坂巻のすすめを聞き、おゆうは茶屋を営み始めた。しかしある日突然坂巻の前から姿を消した。坂巻にとっては突然だったのだが、おゆうには理由があった。それは坂巻が別事件にかかわった女性と偶然出会い立ち話をしていただけのことだったのだが、おゆうの目には「別の女性がいる。罪のある自分は坂巻の足手まといになる」などと状況を深読みし、ある日突然姿を消した。

 

坂巻にとっては思い出の品川で事件が起きた。恋に狂いその思いを払って欲しいと自らを火に包むという恐ろしい事件だった。この神社は「恋払い神社」として知られており、実らなかった恋心を払いたいという女性が数多くお参りに来ていたという。そんな神社の境内での事件であったため、一気にこの事件は江戸に広がった。

 

南町奉行所が調べを続けたところ、この女性は30年前にすでに他界したという女性であることがわかった。すでに鬼籍に入ったものがなぜまた世に出、またもや命を落とすのか。謎はどんどんと深まっていく。

 

その頃南町奉行所は暁星右衛門という悪党を追っていた。この頃の事件の中で幾度か名の上がっていた大泥棒だが、長くその存在は江戸からはすっかり消え去っていた。暁星右衛門は江戸の生まれだが、その後関西へと身を隠したとの噂がある。南町奉行所でも大阪へと連絡をつけ、事件の詳細について調べているところであった。

 

ちょうどその恋払い神社の調査を進めていくにあたり、その女性が念をかけた相手が品川の宿に逗留していた関西の富豪へと行き当たる。この人物の後を追おうとする奉行所だが、それが毎回うまく巻かれてしまう。どうも自分たちの先を行くような、なんとなく奉行の根岸にも共通する先を読む目を持つもののようだ感じられるほどに知恵のあるものだった。

 

品川での調査を重ねているうちに、恋払い神社の事件は解決までの道筋が見え始めるが、その一方で暁への謎はどんどんと深まり、むしろ江戸へ危険が迫りつつある様子が漂い始める。加えて坂巻の恋心はどうなるのだろうか。

 

後半部はこの暁の存在が物語を引っ張ることになるかもしれない。土曜日の夜、ホテルの部屋でゆっくりと昔のドラマをBGMに読書を楽しんだ。

 

ところで、品川周辺の地名も気になるところが多い。品川を抜けて西へと向かう拠点であったからか、時代小説の中にたまにその名が登場する。普段は電車のアナウンスなどあまり気にしないのだが、羽田空港へ向かっている間はなぜかその名が結構気になるのでアナウンスを楽しみにしながら車窓の風景を楽しんでいる。