Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#755 名物は厚焼き玉子だそうです~「王子狐火殺人事件 耳袋秘帖」

『王子狐火殺人事件』風野真知雄 著

耳袋シリーズ第11弾。

 

気が付いたら6月になっていて、上半期のラストスパート時期となっていた。在宅勤務も儘ならず、お勤めマシーン状態が続いている方も多数おられることだろう。天気のせいもあってかなかなかモチベも上がらず、効率良く動けていないことに情けなさを感じながらも「淡々と日々を送るしかないのかな」と少し諦めモードです。でも読書は楽しいので今日も記録を残したいと思う。

 

この頃読んでいるシリーズもの。

 

今回の舞台は王子。王子と言われて真っ先に思い出すのは王子稲荷神社だが、考えてみると王子にはあまり行ったことがない。一体何があるのか良くわからないというのが正直なところだが、このタイトルは絶対に稲荷神社を指しているな、という予測はつく。だって稲荷といえばお狐さま。狐火とくればもうここしかありえない。

 

そんな王子で不思議な事件が起こる。次々と娘が失踪し、悲しい姿で見つかった。まず、祝言を控えた花嫁が消えた。ちょうどそこに南町奉行の家来の坂巻が王子を訪ね、事件の存在を知る。娘が見つかった場所は狐の嫁入りの話で有名な場所で、嫁入り前のお狐さまが着替えをするという大樹の下だった。ところが、その嫁ぐ娘とは全く別の娘が、花嫁姿で倒れていたから事件は複雑を極めてくる。

 

南町奉行である根岸肥前守には二人の信頼できる部下がいる。一人は坂巻と言い、彼はもともと奉行である根岸の元に仕えていたものだ。もう一人は根岸が南町奉行になる際、既存の同心の中から一人を選んだ。名を栗田と言う。その選び方も面白く、町人に化けた坂巻が小さな事件を起こし、わざと同心をおびき寄せる。小さな事件なので注意くらいで済む内容だ。そこで坂巻が「お礼です」と袖の下を渡す。南町奉行所では殆どの同心が金銭を受け取ったが、栗田は一切受け取らずむしろ袖の下を渡そうとする相手を叱った。その人柄を奉行は買ったわけだ。

 

さて、王子の事件はどんどんと場所を変えて謎を深めていく。類似の事件が江戸の中でも起き始めたからだ。若い娘、神社とのつながり、王子。それをヒントに情報を集めていく。栗田が頼りにしている岡っ引きも情報収集にあたり、不思議の理由が明らかになる。

 

謎が絡まった事件に、奉行所が得た何気ない情報が多くのヒントとなり事件を解く。このあたりは少し無理があるぞと思う面もあるが、でも一見関連のないような情報が大きな助けとなることもあるので、まあそういうものかと思うことにしよう。

 

最終的に事件の謎は解けるが、ちょっと悲しい終わり方でもある。こういうところが江戸らしさというか、日本人の心の底にある正義なのかと考える。全く別の次元の話かもしれないが、主従の関係というのは信頼がなくては成り立たない。日本人はその信じるという部分に気が付かないうちに重きをおいているというか、ビジネスの面でも相手を信じられるかどうかというのは大きな指標になっている。またそれに関連して責任を取ること、責任の取り方について、従側は主側が必ずその立場に立つ者と考えている。

 

令和の今はどうであろう。イギリスのドラマDownton Abbeyを見ても感じることだが、人として互いを尊重できる環境が育たなくては社会の中を快適にすることができないのかも。江戸の話を読むと、なぜかちょっと横にそれたことを考えたくなってしまう。不思議ですね。