Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#753 美味しいものが食べたい~「神楽坂迷い道殺人事件 耳袋秘帖」

『神楽坂迷い道殺人事件 耳袋秘帖』風野真知雄 著

耳袋シリーズ第10弾

 

会社での人間関係というものを私は今まで一過性のものと考えてきた。この組織内、もっと言えば会社という建物の中にいる時だけの関係で、プライベートとは全く別のところにあり、決して交わらない。会社でのことが自分のプライベートに何等かの関連性をもたらすなんていうことは極々稀なものだと思っていた。だから会社で嫌なことがあってもプライベートさえ充実していれば、そう気にはならなかったのである。

 

もちろん公私に渡ってお付き合いしたいという素晴らしいお人柄の方にも沢山会ってきたが、相手にとって私の存在が「公私に渡って」と思える立場かはわからないので、一方的に自分の好意をぶつけることはせず、でもお誘いを受けたら喜んで同席させてもらることはしている。そういう時間は実りも多く、勤めていてよかったなぁと思うのだが、もちろんその逆もある。これを上手く心に留めないことがプロなんだろうなー。と言うことでとにかく会社を一歩出たら全てをリセットする技を身に付けたいと努力しているところだ。

 

さて、この頃読んでいるこのシリーズ。


今回は神楽坂が登場。神楽坂と言えばあれこれおいしいお店の記憶が真っ先に出てくるのだが、この当時は武家町の北にある入りくねった道という感じだったようだ。

 

今回の事件は根岸がついてからの南町奉行所シリーズの中で、少しだけ淡い思い強めの作品となっている。その理由は「新宿」にある。

かつて内藤新宿で起きた事件には「ふまのもの」と言われる一族が関係していた。奉行、根岸肥前守の考えではかつて活躍した忍びの一族で「風魔の者」ではないかと考えている。その事件の犯人は若い姉弟で一族の敵討ちであった。弟は命を落とし、姉は生き延びている。

 

その姉は茶屋に勤めて身を隠していた。というより、山の生活と町の生活が違いすぎ、弟は町の生活に全く馴染むことが出来なかったからだ。そして新宿を調査していた根岸の部下の坂巻は、休憩がてらにその茶屋を利用することが多く、姉に少なからず良い印象を抱いていた。新宿の事件の深層が明るみに出た時、坂巻は少なからずショックを受けたに違いない。そして姉のみが生き延びその場から脱出したことを安堵していた。もしかするとそんな坂巻の心の動きにお奉行はすでに気が付いていたかもしれない。

 

そして、なんとなんとしばらくたってから二人は再開するのである。たまたま品川に調査に来ていた坂巻は、偶然その娘に出会った。追おうとするも、足に怪我をしていて動けない。それを不憫に思った娘が坂巻と心を通わせていく。二人は今、友人として行き来している。娘は今、神楽坂に茶屋を持ち細々と暮らしている。

 

今回の事件は神楽坂に七福神が現れたことだった。七福神とは、大黒天、毘沙門天、恵比寿天、寿老人、福禄寿、弁天と7人の神によるものだ。その恩恵にあやかって商売を始めるものが神楽坂に現れた。今で言うスタンプラリーのようなもので、それぞれの神の役割を担当する者の店でお金を使い、印をもらう。全部集めると福があるかも、いやありそう、みたいな感じのうっすらしたご縁を期待した町民が日々神楽坂を訪れている。

 

ところが、寿老人の役割をしていたじいさんが店の中で亡くなっていた。棚の上に置いてあった七福神の置物が頭に落ちてのことだったらしい。それに奇妙さを抱いた根岸らが事件を追うというストーリーだ。

 

奉行の根岸は今や還暦を過ぎてはいるが、若い頃は相当かなりのやんちゃで相当な闇をも知っている。江戸の街にも詳しいし、口調もどこか町人風だ。顔も広く、武家から町の有力者まで人脈も並みではない。でも、どこかそれが納得できるのは根岸の人柄が良いからだ。心を広く、垣根を設けることをしない。視野も広くて博識である。それも自らが実際に触れて知った知識であるから、付け焼刃な所がなく頼もしい。こんな上司の下で働くのはさぞ楽しいだろうなあと栗田と坂巻が羨ましい。

 

ところで神楽坂に戻る。お気に入りの店がいくつかあるが、思えばコロナ以降一度も行けていないことに気が付いた。美味しいものを食べてパワーアップしなくては!!!