Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#775 怪談といえば猫?~「妖怪うしろ猫」

『妖怪うしろ猫』風野真知雄 著

耳袋妖談シリーズ1冊目。

お盆真っ盛り。本日は日本の平和について考える日でもある。

 

今年のお盆は久々に実家に帰った方も多いことだろう。暦の上ではすでに立秋を過ぎてはいるが、まだまだ夏の暑さは続いている。今は北海道でもエアコン必須らしいから、温暖化はどんどんと北上しているということだ。江戸時代はせいぜい打ち水やうちわであおぐ程度だったから、こんな40度にもなる天気となると大勢の人が倒れてしまうに違いない。

 

ということで、江戸の涼といえば怪談である。耳袋シリーズはここから「妖談」へと移る。1冊目は猫の話だ。

 

根岸にはおたかという妻がいた。数年前に病で他界したのだが、根岸には今でもおたかの姿が見えている。よって根岸は目の前の世界だけではなく、またそれとは別の世界が存在しているはずと考えている。部下はすでにそんな根岸に慣れてはいるが、江戸の庶民は妖は基本的に恐ろしい。特に猫は化けるものというイメージが強く、怪談に登場する頻度も高い。

 

さて、本書からは栗田と坂巻は全く登場しない。そして宮尾と椀田が奉行である根岸を支えている。根岸が奉行になってからというもの、栗田と坂巻のコンビが活躍してきただけに、本シリーズになって完全に現れないのは寂しい限りだ。もしかするとこのシリーズから出版社が変更になっていることも関係しているのかもしれないが、根岸家に使える宮尾が安房からやって来て間もない頃の話となっているので、本当なら栗田らと同時期にいたはず。

 

しかも椀田は旗本のドラ息子を取り締まった時に怪我を負わせたことから、ただいま絶賛謹慎中である。奉行所の中に入ることもできないし、同心姿で街中をあることすら許されない。そこで奉行所ではなく、駿河台の本宅へと呼び出されたところで、宮尾と出会う。とすると、坂巻が奉行所詰めになっている間、駿河台を守っていたのが宮尾ということか。

 

ところで、根岸は動物が好きだ。奉行所の中にある私邸では黒猫を飼っている。そして駿河台にある本宅には「うしろう」という猫がいる。今、「うしろう」は後姿しか見せない。それがそのまま名前となってしまった。このうしろうの正面顔を知る者は駿河台の私邸で留守を守る長男一家の孫、篤五郎ただ一人だ。篤五郎はとても繊細な子で、おそらく根岸に似たところがあるのだろう。おたかのことも見えているようだし、感性が子供のそれではないようだ。

 

そんな妖めいた江戸で起きた少し不思議な事件のシリーズのスタートの主人公はある意味うしろうが担っている。根岸の部下は皆すべてが根岸に好意的ではないようだ。その中の一人がある日事件の解決に出たところ、奇怪な動きをした。事件現場に向かったは良いが、少し不可解で煮え切らない態度で現場を去った。根岸は日々、この同心が体罰的なお調べを行うことを気にしており、一体何が起こっているのかを気にしている。

 

そしてその部下が躯となって見つかったことから騒動となる。一体だれが同心に手を書けたのか。事件は難解を極め、加えてなかなか見えてこない。ところがそれを助けたのが「うしろう」だ。そう、うしろうは見ていた。というか、知っていた。ところがうしろうには伝える術がない。そこを読み抜いた根岸の推理が素晴らしい。

 

前作と異なる面白さがありそうな予感。