『九十九藤』西條奈加 著
つづらふじ
春、勢い余って某ホテルグループの宿泊チケット5泊分を購入してしまった。それも期限があって7月いつだかまでに使い切らなくてはならない。ということで、今一生懸命カレンダーを見つつ日程を検討しているところなのだが、5泊分の旅行を計画するって結構大変なことに今更気が付いて愕然としているところだ。
この頃はコロナ禍が過ぎ去り旅行のハードルがぐんと低くなったせいか、宿の確保も難しい上に移動手段も制限されることが多い。久々にレンタカーで移動しようかと目論んでもいるが、そのホテルは国内に点在しており行き先から決めなくてはならない。ああ、旅先でゆっくり読書を楽しみたい。
とりあえず頭の中が定まらない時は読書に限る。一度リセットしてからまた考え直そうとタイトル美しい本書を読むことにした。
九十九は「つくも」と読むことが多いが、本書では「九十九折り」から「つづら」と読ませている。試しに「つづらふじ」を検索してみると山ぶどうのような実を付けた植物で、枝が長く伸びてくねくねと折れ曲がっている写真が出て来た。実もぶどうのようで青く小さなものだが、毒性があるので食べないほうが良いとのこと。つづらふじは本来「葛藤」と書くそうで、九十九折はこの葛藤の枝ようにくねくねと折曲がる道が続くことを指す。
時代小説の中にも商売について書かれたものはいくつもあるが、高田郁さんの作品同様、本書も女性が商いを立て直す物語だ。主人公のお藤は四日市の生まれである。家は旅籠を営んでおり、祖母の代で加えて口入屋を始めることとなった。口入屋とは今でいう人材派遣で、お藤の家は江戸へ奉公させる子供を中心に商いを行っていた。お藤は祖母の働く様子、母の働く様子から商いへ関心を持つようになる。
残念なことに、祖母と母が病で世を去り、家は父が継ぐこととなった。父は商いの才に欠け、そのうち身を崩してしまう。飯炊き女であったらしい継母はもちろん商いなどには関心がなく、昼から酒を飲み、楽しく暮らすことしか頭になり。そのうち父も体を壊し、お藤は唯一の家族を亡くしてしまう。それを機に継母は動いた。家に愛人を呼び寄せ、お藤を女衒に売る算段を取った。
継母のようにはなりたくない。お藤はとっさに逃げた。そして武士と江戸の商人に助けられ、江戸で奉公することとなる。そんなお藤も江戸での数年を経て、その才を認められ口入屋の陣頭指揮をとることとなる。そこからがお藤の人生をより心豊かなものに変えていくというお話。
商売のお話はシリーズとなっているものが多いことから、たった1冊の読み切りでは少し物足りない感じがしてしまう。内容がぎゅっと詰まっているので読み応えがあるが、逆にそれがその他の女性の商いもの小説との差になっているようだ。