Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#483 日本の商いに見る思い~ 「あきない世傳 金と銀12」

『あきない世傳 金と銀 12』高田郁 著

江戸本店の新たな歩み。

 

週末、いきなり春めいた天気となり少し心が明るくなる。とはいえ、この暖かさはアレをもたらす。そう、それは花粉!私はまだ軽いほうだが、突然状態が悪化することもあるというので注意したい。

 

さて、手持ちの未読本を減らすまでは新しい本を買わないと決めた。最後に買った本が2冊あるのだが、こちらはそのうちの1冊。高田郁さんの新作は別格!ということで、購入してから少し時間がたったが、週末ゆっくり堪能した。

 


シリーズの12巻目。6巻目で五鈴屋江戸本店でのお話が始まったので、ちょうど折り返したこととなる。五鈴屋は大阪に本店のある呉服商で、幸はそこへ奉公したことから縁が始まった。五鈴屋の兄弟に嫁ぎ、今は女でも商売ができる江戸にて五鈴屋を支えている。

 

江戸に来るにあたり、幸の実妹も五鈴屋の面々とともに大阪を旅立った。その妹は姉の存在をどうしても超えることができないことに気が付いてしまう。商いではない。女として、恋心から負けを悟ることとなった。それからの妹の動きは五鈴屋に数々の危機をもたらした。

 

まず、突然姿を消し、音羽屋という両替商の後妻となった。そして思いを寄せていた賢輔の描いた図柄を持ち出し、自ら呉服商となる。苦労して生み出したその図案で、商売を軌道に乗せるべく、一丸となり準備していた五鈴屋の面々は、妹の行動に大きく落胆する。さらには、五鈴屋は絹織物を扱うことができなくなる。つまり、呉服商の看板を掲げることができなくなった。知恵を絞り、その後は太物という綿や麻の素材で力をつけていく。

 

12巻はまた呉服商に戻れるかどうかの話が続く。いつのまにか五鈴屋も江戸で長い時を重ね、信用を得る店となっていった。帯の結び方の指南も変わらず続け、今では浅草にすっかり馴染んで、地域の人々とも温かく気持ちを通わせている。

 

幸の商いに対する知恵は現実にも通ずるものがある。打開策のために知恵を絞る。絶対に自身の徳を優先せず、「買っての幸せ、売っての幸せ」を心がける。これは買う側の立場にも立つことで、視野を広げる効果があるのではないだろうか。売ることだけを考えていれば、戦略にいつかは限界がくる。そんな時に視点を変えることで新たな考えが浮かぶかもしれない。実際に幸も本作で新たなアイデアで乗り切っているが、それはものすごく大きなことではない。ちょっと角度を変えて物事を見ることで生まれるヒントを、上手に生かしているからこそのアイデア

 

この売る側の利益だけではなく、買う側の利益や喜びを追求する考え方は、日本人にとっては何度も聞いたことのある商売哲学だ。私たちが発展できたのは、ニーズを追求することに長けていたからではないか?とこの頃感じ入るような出来事があった。今、日本の市場に入って来る海外企業を見ていると、決して日本人が求めているからやって来たわけではなく、彼らの商売の都合で日本市場に登場している場合があるように思う。「日本市場に進出しました!」という実績だけを作る。売れても売れなくても、日本人に迷惑を掛けようが、日本に損害を与えようが、そんなことは関係ない。だって自分の国でプラスになればいいわけだし、日本の不利益なんてどうでもいい。他の海外でビジネスをするための布石のために日本に来る場合もあるかもしれないし、とりあえず利用しとけ!くらいの気持ちであくまでも本国での利益を優先とする。私たちはだからこそ先人の教えを忘れてはならないんだな、と本書を読みつつぼんやりと考えた。買っての幸せ、売っての幸せ。誰もが商いを通して幸せにならなくては。

 

さて、幸もそろそろ40となろうとしている。再々々婚の話があっても良さそうな上に、重なる問題も一つ一つ解決してきた幸にはぜひ幸せになってもらいたい、という気持ちになる12巻だった。