Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#530 Kindle Unlimitedのキャンペーンに乗っかってみました~「口入れ屋おふく 昨日みた夢」

『口入れ屋おふく 昨日みた夢』宇江佐真理 著

助っ人として稼業の口入れ屋を盛り上げる、おふく。

 

ああ、なんということか!このタイミングでKindle Unlimitedが2か月99円のキャンペーンを実施するだなんて!通常は月980円なのでこれは相当大きなキャンペーンだと言えるだろう。2コインで2か月あれこれ読み放題だなんて嬉しすぎる、と早速登録してしまいました…。ああ、溜まりに溜まった書籍はいつ読み終えられるのだろう。

 

だが読みたかった小説がたくさんあるので、それを1冊でも多く読めれば良しとすることにした。早速、長く読みたかった本書をダウンロードする。

 

宇江佐真理さんの作品は「髪結い伊佐次シリーズ」の他、短編もいくつか読んでいる。

 

 

残念ながら、髪結い伊佐次は著者の他界により未完となっている。その当時にリアルタイムで本作を読んでいたファンの方はショックを受けたことだろう。あとがきで病を患っておられたことは記されているが、すでに世を去られていることを知りつつも残念でならなかった。著者の書く世界に惹かれ、その後もできる限り著者の作品を読みたいと考えているところでの本キャンペーンにありがたく乗った理由は本書を読みたかったからだ。

 

さて、口入れ屋だがこれは今で言うところの人材派遣で、江戸時代からあったビジネスが今でも脈々と引き継がれていることに、日本がこうして豊かになれたのは何百年も前から商いの基盤が育てられていたからだろうと感じずにはいられない。

 

おふくの父は双子で、あまりにそっくりで他人には見分けが付かないほどだ。しかも、二人は何をするにも同時だからより一層周りを混乱させている。叔母はあえて二人に同じ着物をあつらえて面白がっているところもあり、本業の口入れ屋の商いにもそれなりにプラスとなっている。おふくの母親は幼い頃に病で亡くなり、その後は父の実家である口入れ屋「きまり屋」に一室をもらい暮らしていた。

 

おふくは実は出戻りだ。猛烈に恋焦がれて勇次という男と所帯を持つも、1年余り共に過ごした頃、忽然と姿を消した。すでに勇次が去って5年が経つが、おふくは心の整理が出来ずにいる。

 

ちょっと話は横にそれるが、ものすごく好きな人をあきらめるのに5年が長いのか、短いのか。個人的には5年はありうると思う。その人の不在は些細なことでも心を波立てる。すぐに次に移れるのならば、それはラッキー。唯一効くのは「ときぐすり」だが、即効性がない事が問題だ。実にゆっくり時は流れ、気が付くと5年ということもあると思う。


さて、おふくはまだまだ癒えない心をもちつつ、実家の稼業を手伝っている。例えば半月だったり、1週間だったり、期間の短いものなんかも口入れ屋としては扱いに困る。あとは女中が居つかないような仕事のきつい商家なんかもなかなかに難しい。そんな時こそがおふくの出番で、身の回りのものだけを風呂敷に包み依頼先へ出かけていく。

 

大体が一癖も二癖もある依頼先なので、稼業を手伝うおふくも知らず知らずのうちに忍耐力が付いたのかもしれない。そして辛さは優しさを生む。行く先々での問題ごとに触れるおふくの温かさに読み手もついほろっと来る。

 

江戸には恋心を悩ませるシステムがあった。妾や多妻、身分や親の決め事で実らぬ恋もあっただろう。それがひっそりと根底に流れており、より日常感を強めているように感じた。誰が悪いわけでもなく、社会の仕組みが恋心に優しくなかった、という感じだろうか。だれもが感じる、だれもが経験する心の重りを江戸の人も感じていたんだなーと切ない気持ちにもなる。市井の生きる様が見事に書かれたストーリーだ。

 

おふくがその澱をも承知の上で女中として人に仕えている様子から逞しさこそが生きる知恵と思える一冊。ひとまず5月、6月はKindle Unlimitedを最大限利用させて頂きたいと思う。