Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#736 日本にもバケーション制度を導入して欲しい~「浅草妖刀殺人事件 耳袋秘帖」

『浅草妖刀殺人事件 耳袋秘帖』風野真知雄 著

村正。

 

きっと今この瞬間にもため息いっぱいの人が日本中にあふれていると思われるが、とにかくだるい。仕事が嫌いなわけではないが、会社という空間がもう...な私と同タイプの人ならば、デスクに座っているところを想像するだけでもげっそり来ることだろう。ああ、偉大なるゴールデンウィーク。次の休みは夏休みかーと考えると、日本も欧米のように1月くらいバケーションに出られるような体制にしてもらいたいものである。そうすればお盆周辺の大混雑も避けられるはず。

 

日曜の夜にサザエさんが始まると憂鬱になるという現象があるそうだが、私はたいてい「さて、夕食はどうしよう」と考えるあたりから「明日は会社」を意識する。この頃は外で食べることも多くなってはいるが、基本的にはお弁当を持参したい派なのでそのことも考えると、ふと目の前にオフィスが下りてくる。結局、私はいろいろなことを「食」を基本に考えているようだ。

 

加えて雨。ただでさえ五月病になってもおかしくないのに、どんより感にあおられている感すらある。とにかくゴールデンウィークを満喫し過ぎた上にイギリスの戴冠式を見るなど現実離れが続いてしまったせいで、月曜日がどんと重くなりそうと頭を平日に寄せる準備をしようと本書を読んだ。時代小説を読んだところで何かが動くわけではないのだが、なんとなくいつもの行動でいつもの私を取り戻せそうな気がしたわけである。

 

ということで、今読んでいるシリーズものの続編を読んだ。


おけら長屋まではいかずとも、味見方同心ほどの笑いを求めて読み始めたのだが、しっかりと捕り物が軸に進んでいく。2巻目では「おたすけ兄弟」と言う義賊のような名前を持った敵が現れる。なぜ「おたすけ」か。江戸の市民を助けるわけではない。小判をばらまくわけでもない。兄弟は互いを「た」「すけ」と呼び合っていただけのことだ。

 

このおたすけ兄弟、南と北が同時に調査を進めるもなかなか手に落ちなかった。兄弟は商家を襲い、金を盗むだけではない。残酷にもその場にいた人間の命までをも経った。慎重に慎重を重ねる調査の末、少しずつそのしっぽが見えてくる。しかし敵はそれをもうまく逃げていく。

 

きっかけは南町のもとに落ちてくる。まず、大店の娘が居なくなったとの話があった。一家で探し、なんと娘は床下に居たまではわかったが、肝心の娘は一向に床下から出てこようとしないという。面白い話が大好きな根岸は、奉行の傍ら「耳袋」という手記を記している。これが武家の中で回し読まれるほどの人気で、今や千代田の城でもその名が知られているほどである。故に面白そうな話があれば報告するようにと根岸は常々廻りの者に話している。その縁からやってきた縁の下の話であった。

 

話しはおたすけ兄弟に戻る。これはなんとも残酷な話なのだが、「た」と「すけ」の兄弟は、親が失った店を立て直したいという目論見があり、目標を二千両と定めて盗みを続けた。かつて父が営んでいた商売に近い業種であれば、どこに何があるのかの検討が付く。二人は父の商売が行きゆかなくなった後、母の手で育てられた。しかしそれも束の間、すぐに家を出されて芸を身に付けるはめとなる。

 

頼れるものは兄弟二人だけ。幸せだった頃の生活を取り戻そうとのことであったが、それは間違った方法だ。もし、幼い頃に親を失い、預けられた先が理不尽に厳しい所だとしたら、子供の心には憎しみや悲しみばかりが育つのではないだろうか。感情がコントロールできなくなれば、残忍性ばかりが膨張するのかもしれない。

 

さて、根岸の部下の坂巻はかつて許嫁が病で亡くなった時、とてつもない喪失感に襲われた。それを知る根岸は床下の様子を見てくるようにと指示を出す。何度か通い、少しずつ娘と話ができるようになった矢先のことである。いつものように床下で一人座っていた時のこと、夜、何者かが忍び寄ってきた。お互いを「た」「すけ」と呼び合っている。そう、おたすけ兄弟がやってきたのだ。その娘の家は大店で、次のターゲットとして兄弟が目を付けた商家だった。まさか床下に人がいるなどとは思わない二人は、娘のことをこの世のものではないと考えた。

 

ここから事件が動き出す。根岸の推理、周りの情報を頼りにしたところ、二人は刀屋を営んでいたものの息子であることがわかり、店がつぶれた理由が「村正」にあることがわかった。この村正がキーワードとなり一気に南町奉行所が攻めよっていく。

 

ああ、それにしてもゴールデンウィークがあっという間すぎた。5月6月は4月以上に多忙となることが予想されるので今からすでに胃が痛い。