Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#737 「おきゃん」は「お侠」と書くんですね~「江戸芙蓉堂医館」

『江戸芙蓉堂医館』杉本苑子 著

千鶴の見立て。

 

資料としてちょっとだけ内容をチェックしたい書籍があったのだが、Kindle Unlimitedの限度数(10冊まで)が超えていた。急いで何か読んでしまわなくてはとさっそくこちらを読み始めたのだが、楽しい一冊であっという間に読み終えた。Kindle UnlimitedにAmazon Audibleと読書関連のサブスクを充実させるのは良いが、読書時間やメモを残す時間がなかなか確保できていないの問題だ。Kindleの中の本もどんどん読んでいかなくては。

 

さて、本書はずいぶん前に読もう読もうとダウンロードしていた作品で、やっと読めた!と満足している。著者は大正生まれで使われる言葉の選択肢が今まで読んできた時代小説とはまた違うところもかなり好みだった。なにより登場人物が魅力的!続編がないかと探してみたが残念ながら見当たらなかった。

 

主人公の半井千鶴は日本橋宇田川町で芙蓉医館を営む女医者だ。代々医学を学ぶ家系の出身で、父は幕府奥医師という名家に生まれ、漢医学から蘭医学までを学ぶ秀才だ。父も認めるその才能は「千鶴が男であったなら」と言わせるほどで、医館を開きたいという千鶴に賛成した。ただし、江戸っ子らしくきっぷの良すぎる千鶴のこと、お目付け役は絶対に必要と次兄の住む家を増改築し、医館を作った。

 

長兄は父の後を継ぐべく医療の道に進んでいるが、次兄は幕府の中でもまた別の役職に就いた。次兄は毒見薬を務めている。それが千鶴には可笑しくてならない。平和な江戸時代、幕府が戦に備える必要があるのかと千鶴は思う。兄の毒見の話は深刻そのものでも千鶴はいつも笑ってしまう。

 

芙蓉医館には日々患者が絶えない。もちろん千鶴の腕がよく知られていることもあるが、千鶴が身分に関係なく治療を施すからだ。そして恵まれないものからはお金は取らず、むしろお金を渡すことすらある。例えば年末にどうしてもお金の工面ができず、掛け取りから逃げるために病気を装うことがある。病気ではないことが分かっていながらも千鶴は呼ばれれば長屋へ行き、一演技を打つこともあった。

 

医療の話というのは今は最新の治療法で不治と言われた病を治していくようなものに内容が転じているが、基本的には「弱気を助ける」な主人公が活躍するものが多い。千鶴もそんな一人で、もし今千鶴をドラマ化するならば、名医を父に持つ凄腕の女医者が小さな医院を開き市民を助ける風だろう。

 

千鶴のキャラクターは「おきゃん」の一言なのだが、おきゃんは漢字で「お侠」であることを知った。おきゃんとは若い女性でまるで男のように元気で活発なタイプのことを指す。お転婆ともちょっと違うし、じゃじゃ馬ともちょっと違うような気もする。男勝りで、なんでも挑戦するようなタイプだろうか。私は好意的におきゃんという言葉をとらえているし、こういう登場人物が出てくると物語に動きが出て楽しくなる。

 

そのほかにも面白かったのが「くりからもんもん」。なんだろうと検索すると、倶利伽羅紋々と書くらしい。これは背中の入れ墨のことを指すらしく、倶利伽羅サンスクリット語からきているらしく日本語に当てはめると不動明王となるらしい。これもまた一つ学んだ。

 

時代背景を知るヒントとして杉田立卿の存在がある。杉田玄白の息子で、1878年生まれ。その立卿が30過ぎとあるので、1800年頃の話であろう。時代小説の良いところは、こうして小説=フィクションだと知っていながらも歴史に触れる瞬間が増えていくところだ。時代という時間軸が違えば、江戸の様子も違ってくる。そんな江戸の遍歴を知ることで楽しみながら知識を補える利点がある。

 

医療の話というよりは、千鶴を介して触れられる江戸の暮らしっぷりを楽しむ一冊。Kindle Unlimitedで無料で読めるのでおすすめです。