Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#729 不快さが圧巻すぎる凄み~「彼女は頭が悪いから」

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ 著

傲慢さを受け身で。

 

今年は桜の時期に他出しており、帰ってきた頃には葉桜となっていた。そもそも、速すぎる。季節の巡るのが早すぎて、まだ4月だというのに一気に20度を上回る気温に体が付いていけない。こんな温かさではあるが、まだまだ花粉が飛んでいるようで時に目が肌が痒くなって「早く夏にならんかなー」という感じだ。

 

さて、本書はそんな陽気の中、体の芯が心底冷えつつも燃えるような気持ちで読んだ一冊だ。スマホが当たり前となり生活が秒速で変わっていく日々が続いている。便利さが身近になったという利点もあれば、悪用されることで人の命を脅かすこともある。

 

本書はそんなスマホを最も使いこなしているであろう世代が主人公である。美咲はものすごく地味な普通の子だ。3人姉弟の長女で、家の手伝いをし、目立つ要素など一切ないような生活をしている。中間レベルの高校に進み、歴史はあるがランクの高くはない大学の家政科へ進んだ。

 

強烈なタイトルの彼女とは美咲のことだ。たしかに、人より優れていると思わせるところは本書からは感じられない。性格良さそうとは思えど、それがものすごく突出してというのではなく「おっとりしている」とか「天然で優しい」な感じだろうか。自分の生まれた環境から高望みは完全に諦めており「どうせ」と心の中で不満に折り合いをつけてしまうタイプだ。

 

そんな美咲が恋をする歳となった。なかなか発展することもないし、本人もそれほど多くを望んではいない。だから乗り遅れてしまうところもある。そんな美咲が偶然出会った東大生に恋をした。そこからだ。美咲はどんどんと深みにはまる。

 

美咲のような女性にとって「東大」はとにかくすごい!なわけであり、自分のような人が東大の人に褒められたというだけで舞い上がってしまう。自分を必要以上に卑下してしまい、それが見ていて痛々しい。一方の本書に登場する東大生は驕り高ぶり、周囲にも選民意識が蔓延っている。それがどんどんエスカレートして行き、事件となった。

 

本書のプロローグにはこれが「とある事件を過去からさかのぼる」とあり、それぞれの小学生時代あたりまで、要は人格形成がどのように行われたのかまでを追っているのだが、「東大」というブランドがくっついてからの男性陣の根性が悪態付きたくなるレベルでひどい。実際こんな人滅多にいないとは思うけれど、しかし学歴社会の世の中で最高学府のブランドがこうも優遇されているのかと知り(まあこれも小説の中の話で本当かどうかは未確認だが)逆に利用されてしまう人もいるのでは?と心配にもなる。

 

事件の内容は東大生5人が女子大生にわいせつ行為を働いたというものなのだが、実際に行為が行われたのではなく、侮蔑の対処として美咲が餌食になった。そのようすが見事に描かれていて不快感100%なのだが最後まで読まずにはいられない。どうすれば美咲を救えるのか。何がここまで彼らを傲慢にさせたのか。社会の歪みが急に身近になったような作品であった。

 

世の中に多くの選択肢が増えたことにより、簡単に増長してしまうことへの危機感や不安やイライラなど、不の要素がすべて見事に織り込まれた力作。