Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#727 子供のパワー、恐るべし~「てらこや青義堂 師匠、走る」

『てらこや青義堂 師匠、走る』今村翔吾 著

元気な子供。

 

4月に入ってからなかなか自分の時間が取れないまま、そろそろゴールデンウィークの過ごし方を考えなくてはならないタイミングに入って来た。GWこがそ稼ぎ時!休むなんて無理!という業種ではないにも関わらず、なぜだかあれこれと仕事がどんどんと降ってわいてくる。今のところは本宅に帰り、家のことをあれこれ片付けたり、読みたかった本をどんどん読んだりということを考えているのだが、まだチケットすら取っていないので予定は未定の状態だ。プライベートの予定が整わないというストレスで余計に仕事が進まないという悪循環から抜け出したいと、少しでも明るいタイトルの本を読んでみることにした。

 

私にとっては直木賞受賞作品ではなく、こちらが初今村作品となる。表紙の絵もなんとも愛嬌があっていかにも「楽しいぞ!」な様子が伝わり読む前から期待が高まった。余談だが私は犬が出てくる作品を読むと元気が湧いてくる。「居眠り磐音シリーズ」にも白山という犬がいた。とくに柴タイプの茶色いわんこが大好きなので、本書に出てくる時丸も賢さと可愛らしさが溢れ出ていて登場する度に元気をもらった。

 

さて、本書は寺子屋の師匠である十蔵と筆子たちがおりなすほっこり系のお話だ。十蔵は青義堂という寺子屋で細々と暮らしている。教え子たちを絶対に見捨てないことを胸にどんな生徒も受けて来た。他で追い出されたような子供たちも十蔵の元ではとりあえず毎日通ってくる。

 

十蔵の教え方はその子供に合った教育を与えることだ。みんなで同じ手習書を使うのではなく、商人の子には商業の、武士の子には武道の、と今後子供たちの未来に役に立つであろうものを教えていた。全く成長しない子もいれば、あっという間に習得して次へ次へと進みたがる子もいる。

 

中でも御家人の子の鉄之助、商人の子の吉太郎、大工の子の源也、そして加賀藩氏の娘の千織の4人には手を焼いていた。しかし根はとても純粋な子供たちだ。幼いながらにそれぞれの個性が突出しており、才能もなかなかである。

 

そんな十蔵もかつては隠密の忍びとして働いていた。自覚するほどに群を抜いて能力が高く、家督をついだ兄よりも技に長けていた。忍びは表舞台に立つことはなくとも財政に影響を与えるほどの仕事を請け負って来た。要人を亡き者にしたり、企てを止めたりと陰に活躍をしている。よって恨みを買ったり、力をつけすぎて敵を作ったりと厳しい世界を生きていた。

 

十蔵には妻がいた。睦月という。ここでも「居眠り磐音シリーズ」を思い出させる名に、その偶然に「おおお!」となる。十蔵は仕事の依頼を通して睦月を知った。そして妻にしてから幸せな日々を過ごしていた。忍びの世界は情が一番の敵となる。愛する者が襲われることを最も恐れる忍びは、友人も作らず一人黙々と生きることもある。もちろん妻帯する者もあるが、それには芯から強靭でなくてはならなかっただろう。

 

十蔵と同様に忍びの中で名をはせていた者が数名いた。その一人の妻子が何者かの手で殺められたという。十蔵は我が身のこととしてこの事件を考えた時、睦月に危険が忍び寄ることを避けなくてはと考える。その結果出した答えが離縁であった。

 

さて、教え子たちと日々葛藤する十蔵だが、ある日吉太郎の父より「またアホなことを考えているようだ」と子供だけで伊勢参りを計画しているようだと知らされる。江戸から伊勢へは関所も超えねばならないのだが、伊勢参りについては免除となり子供だけでも行くことは可能だ。吉太郎の父は十蔵にも同道を願った。

 

迷う十蔵。しかし、これも何かの縁と4人を連れて旅にでる。子供の足に合わせてのゆっくりの旅でここでも事件が勃発する。今で言えば小学校高学年の子供たちと新米教師のような年齢の登場人物が生き生きと動き続ける様子に読み手も俄然元気が出てくる。

 

人を信じ、縁を深めることの強さが沁みる作品