Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#596 金木犀の季節に推理小説を読む ~「葬儀を終えて」

『葬儀を終えて』アガサ・クリスティー

ポアロシリーズ第30弾。

 

週末、久々に近所の神社に参拝した。神社は季節の木々が植えられており、金木犀の甘い香りにまた別の秋を感じる。

 

さて、去年の夏に読み始めたアガサ・クリスティーの作品もこれで30冊目となる。こちらの本をガイドブックとして読む順番等を決めている。

 

 

30弾目、これやばい!なワクワク感だった。早速本題に入りたい。ショートストーリーズなどを除き、長編だけを数えると本作で30作目で、それがもう驚くような展開だった。

 

Title: After the Funeral

Publication date: Mar 1953

Translator: 加島祥造

 

私はKindleで読んでいるのでフォントの大きさなどによりページ数が異なるため、「全体の何%」という紹介しかできないのだが、25%を過ぎたあたりでやっとポアロが登場し、警察の絡みも薄い。ポアロは事件のあった一家の弁護士に頼まれ、本件を見極めるために現場へ行く。

 

まず、30作目にしてポアロがものすごくじーさん扱いされており、これも良く言われていることだが、長編なのに引退後の刑事を主人公にしたアガサの苦肉の策かと感じられた。そもそも最初の本が1921年に出版されているから、かれこれ30年余り、ポアロは60代くらいの設定だったのだろうけれど、本作あたりから60代後半?いや70代かな?と思わせる。活動的ではないけれど、頭は冴えている。

 

さて、今回の舞台はヨークシャーの邸宅だ。アバネシー邸は主人のリチャードを亡くし、葬儀を行った。リチャードの長年の親友であるエントウィッスル氏は、友を亡くした悲しみにありつつも、弁護士としての役割を心得ていた。

 

リチャードには弟が二人、妹が二人いた。弟のティモシーは体が弱く、近所で寝たきりの生活だ。妹二人は嫁に行ったが、家族が手放しで喜ばれるような相手ではなかった。特に末の妹のコーラは知性が足りないと思われており、思ったことをなんでも口に出してしまうような子で、ある日外国人の画家と強行的に結婚した。残りの弟妹は他界しており、葬儀にはリチャードの姪甥にあたる者が出席していた。

 

リチャードは体を壊しており、特に一粒種の息子が急に病で世を去ってからというもの、完全に生きる力を失っていた。そして、ある日寝ている間に旅立ってしまう。タイトルにもある通り、そのリチャードの葬儀の後よりストーリーは始まる。エントウィッスル氏がリチャードの遺言を家族に伝えた場で、末妹のコーラの一言が多くの家族の心を搔き立てた。「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」何も知らない子供が真実を見破る言葉をぽろっとこぼしたような流れに、周りは一瞬音を無くすも「何言ってるんだ」とその場はさらっと別の話が始まった。

 

知性が無いと言われてはいたが、なぜか時に鋭い指摘をすることがコーラという女性に対する家族の共通認識だった。エントウィッスル氏もその一言がどうにも気になってしょうがなかった。するとその翌日、なんとコーラーが殺されたと警察より連絡が入る。

 

エントウィッスル氏がこの事件の複雑さ、不透明さ、そして見えない悪意を暴こうとするも、やはりそう簡単なことではない。そこでポアロが登場することになる。ここまででストーリーの3割弱まで読んだことになるのだが、人間模様や事件の唐突さに息をのみつつ、注意深く読者も探りを入れていることだろう。だが、皆目見当がつかない。

 

ポアロが登場しても、なかなか話は見えてこない。時間軸に沿ってポアロが動いているのは読者にもはっきりわかるし、駆け足でポアロの灰色の脳が動いていることもよくわかる。なのに、最後の最後までベール一枚がなかなか掃いきれない。簡単に答えが見える推理小説なんて全く面白くはないから、本書のようなハラハラが最後の1ページまで続く作品を読めるなんてとても贅沢なことだろう。

 

この作品を演じるとすれば、俳優さんの力量がものすごくはっきりわかることだろう。人とは何か、それをあらゆる方法で散りばめたような作品。翻訳は最近新しくなったものがあるようなので、そちらの方がきっと読みやすいこととは思うが、作品に没頭しているうちに沼に立ってる自分に気が付くはず。

 

評価:☆☆☆☆☆

おもしろさ:☆☆☆☆☆

読みやすさ:☆☆☆☆

 

リチャードの葬儀には