Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#597 サプリみたいな小説と言えば ~「本所おけら長屋 19」

『本所おけら長屋 19』畠山健二 著

ついにあの二人が?

 

例年の10月ってこんなに暑かったかな?と思った昨日。外勤時に歩いていたら、汗が止まらずで大変だった。週末からはぐっと気温が下がるとのことなので、本格的な衣替えを行わなくては。

 

さて、すっかり忘れていた本シリーズ。新刊が発売になっていたので早速読んでみた。

 


上の写真には帯が見えていないのだが、「祝、結婚」の文字がある。そもそも本書では恋愛がテーマになることはほぼなかった。三祐のお栄と松吉、お満先生と万造は以前に話題に上がってはいたが、どうもおけら長屋の場合は笑いの方へ話が伸びていくので、読み手も「ああ、ここはカップルになるのかな」という認識はあれども笑いに負けてしまう。

 

ということで、気になるこの「祝、結婚」を頭の片隅に置きつつ、先を読んだ。今回も4つの話が収められているのだが、この頃はそのうちの一つに笑いに加え泣かせるシーンも出てきて、「だから江戸が好きなんだ!」と益々時代小説ファンっぷりが高まってくるというものだ。

 

おけら長屋には松吉と万造というお騒がせ者がおり、「禍の万松」など、いつも一緒にいることから二人セットで扱われている。元津軽黒石藩の島田鉄斎は人柄の良さもあり、長屋では頼りにされる存在だ。お染は針仕事で生計を立てており、こちらも頼れる存在。他にも住人が数名おり、おけら長屋はいろいろな意味で本所で知られた存在である。

 

今回、その涙を誘ったのは、意外なことになんと八五郎であった。八五郎は長屋の中でもいじられキャラで、妻のお里とともに豪快さがうりの二人である。八五郎は腕の良い左官屋ではあるが、万松にかかるとアホ扱いされており、いつもガハハと笑いを誘うような明るいところがある。八五郎に限らず、おけら長屋は江戸っ子であることを誇りにしており、わけのわからないケンカを始めるのも江戸っ子が故だ。

 

さて、今回はお里がきっかけを作ってきた。絹問屋で女中頭を勤めるお里が偶然いじめられている子を見つけた。3人で1人をいじめており、いじめられた側は血を流している。思わず助けたお里だが、怪我の手当にと差出した手ぬぐいを「私は武士の子。施しは受けませぬ。」と受け取らない。無理やり手拭いを持たせたお里だが、その話を家に帰って八五郎に伝えたあたりから、様子がどんどん変わっていく。

 

本シリーズを読むと、今まで心にあったもやもやが読み終わる頃にはすっと消えている。思わず笑ってしまうようなやり取りや、ほろっと泣けてしまうシーンに触れ、読み手の心が解れていくような効果がある。今の東京に人情が消えたとは言わないが、しかし時代小説に見る江戸はそれがもっとストレートで、人とのつながりがはっきりと目に見え、温度を感じることができる。今でも会社や学校に行けば、そこに誰かがいるだろう。ただ、その人たちと心でつながっているかと言えば、否だ。しかしおけら長屋の場合は、長屋に関わる人達は皆家族であり、心を砕く相手となる。そこが本シリーズが愛される強みだと思う。

 

さて、「祝、結婚」だ。お祝い事、めでたいねえ。しかし、そこはおけら長屋なので、やっぱり事件は起きている。それにしても、楽しい式だった。みんなが幸せを祈るも、ドタバタと彼らなりの流儀でのお祝い事にまたつい涙。

 

ところで、本シリーズももう19冊。単純に計算してももうすぐストーリーも100話に届く。映像化のお話はないのかなあ。寅さん並みの人気作になろうことは間違い無いだろうし、ドリフ的なドタバタは時代モノが苦手な人にもわかりやすいはず。ここは将来を期待しよう。