Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#519 優しさに支えられる~「千年鬼」

『千年鬼』西條奈加 著

小鬼とお民。

 

そろそろゴールデンウィークの過ごし方を考えているのだが、その前に実は3回目の接種を控えている。1日大事を取って休みを申請していはいるが、やっぱり家でゆったり読書と断捨離になっちゃうのかなー。そろそろ旅に出たい。

 

さて、本書だ。「鬼」という単語はなにか恐ろしいものを想像させる。さらには「千年」という単語が修飾語となるともっと怖い。この頃は「しゃばけシリーズ」のおかげで妖にも慣れたというか、寛大になったというか、もともと怖がりだったのにすっかり安心して読書ができている。

 

本書の表紙を見ると真っ赤な鬼が笑いながら女の子を背負って走っている。女の子の表情は驚いているようでもあり、楽しんでいるようでもあり、きっと怖い話じゃないだろうなと購入してみた。そして読み始めてすぐに心がいっぱいになるようなお話っだった。

 

小説というより、童話のようだ。7つのお話で全ての物語の前に序文が添えられている。それがまた昔話が始まるかのような雰囲気を持っている。

 

小売酒屋で通い丁稚として働く幸介は、師走の寒さの中、冷たい水で徳利を洗っている。毎日の下働きでもう手の感覚は無くなっている。通い丁稚は昼は店から食事が出るのだが、いじわるをされることも多くそのうち昼も食べなくなった。家に帰ってももちろん食べるものなく、ひもじい思いは変わらない。幸介に優しいのは店の小さな娘だけだ。「腹が減った。」思わずつぶやいた幸介に、娘が3粒の豆をくれた。香ばしい香りに惹かれていたところ、目の前に3人の子供が物欲しそうに幸介を見ている。ちょっと変わった容姿で、おでこが出ている。そして自身を小鬼だと言った。

 

幸介は物欲しそうな小鬼に豆をあげることにした。すると小鬼は自分たちはお礼に過去世を見せると言う。過去のある時期を見せるだけだが、望めばいつの時代も魅せられるという。幸介は自分がこうして丁稚となった理由である両親が怪我をした時のことを思い出し、その理由が知りたいと言う。

 

3匹の小鬼は幸介に過去を見せた。懐かしい母の姿、父の腕はまだ動いている。幸介の両親は暴れ馬により怪我をした。母はその怪我で亡くなり、看板職人だった父は腕が動かなくなり職を失った。そして今は幸介が丁稚で稼ぐわずかな賃金も酒で飲んでしまう。なぜ、幸介の身にあんなことが起きたのだろうか。それを知り、幸介の心は救われる。その時、なにか塊のようなものが口からぽんと飛び出した。小鬼たちはそれを持って去っていく。

 

その塊は鬼の芽だという。鬼の芽があると小鬼たちが見えるらしい。この幸介の物語から始まり、小鬼がなぜ鬼の芽を集めているのか、小鬼の深い深い心の話に触れていく。

 

「忘れの呪文」という言葉があった。自分が犯してしまった罪を忘れたいがために、犯してしまった罪の重さに耐えられなくなり嘘をつく。そしていつしかその嘘を信じてしまう。それが忘れの呪文だ。

 

小鬼の心は優しさそのもので、その優しさが1000年も続く。ずっとずっと悪の芽を持ってしまった娘のことを支え続ける。小鬼はある日、弟を探すお民という娘に出会う。まだ小さな子供なのに、たった一人で山にいた。実はこのお民も忘れの呪文を使っていたのだが、不本意にもそれが原因で悪の芽を持ってしまう。悪の芽はいつか人を鬼にする。鬼になると人は額から角が生え、それは小鬼たちとはまた異なる鬼となる。天界でも人鬼をどうにかすることはできない。小さなお民の心を救うため、小鬼の優しい心は己を賭ける。

 

ものすごく悲しくもあり、温かくもあり、自然の中に癒されるようなぬくもりを感じられる作品で、読了後は心に何か温かいものが残されるような作品。