Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#529 GWもやっぱり時代小説を読んでます~「雲の果」

『雲の果』あさのあつこ

弥勒の月シリーズ、第8弾。

 

さて、GW中盤となりました。「この飛び石が無ければねえ」と毎年思うのだが、無ければ無いでとてもとても困ってしまう人もいるのかもしれない。病院とか銀行とか郵便とか、この時期に有給取得なんて無理!な方もたくさんおられるだろうし、そもそもサービス業の方ならば人が休む時期こそが稼ぎ時なのでお忙しいことだろう。一方で会社勤めである程度休みを自分でコントロールできる方は有休使って10連休を満喫しておられるはず。コロナさえなければ、きっと海外旅行だの、イベントだので賑わっていたのだろうと考えると、早く元に戻らんかなと思わずにはいられない。

 

さて、近所のスーパーとカフェに行くくらいしか予定もなく(そういえばいつもより混んでなかったからみんなお出かけしているのかも)、優雅に読書三昧の日々を送っている。昨日は初めて近所のカフェに行き、豆を買った。それが思わず声が出るほどに美味しく、ものすごく実りのある気分になった。コーヒー一杯でとても幸せになれるなんて素晴らしい。この満足感とともに何を読むべきか。そう、これしかない!とシリーズの続きを読むことにする。

 

本書は「弥勒の月シリーズ」の8巻目なのだが、読む順番を間違えてしまい6→9→7→8巻目の順で読破した。1冊で1つの大きな事件が片付く展開なので読む順番を間違えてしまったことで大きな変化はないとはいえ、事件の順番など変な感じで頭に残ってしまうのが嫌で、本書を読んでから9巻目を読み直した。

 


8巻目、これは「つながるな」と思った。未来が予見されるストーリーとなっている。同心の信次郎は、常に森下町にある小間物問屋、遠野屋の主人である清之介の過去から「お前は血を呼ぶ。」と今や真っ当な商人となった清之介がまた殺しの世界に戻ると言う。その度に伊佐治親分に注意されるのだが、にやりと笑うだけで絶対にその言葉を取り消すことが無い。当の清之介は商人として生きる道が自分を救ってくれたと決して二度と刀を握らないと誓っている。亡くなった妻がこの道に導いてくれたと今も独り身を貫き、遠野屋の身代を大きくすることに熱中する日々だ。

 

さて、「つながる」と思った理由はこうだ。まず、今回は遠野屋の不幸からストーリーから始まった。先代の時代から番頭として勤めていた喜之助が亡くなった。この頃は清之介が番頭に引き上げた信三が店をまわしてはいたが、喜之助も筆頭番頭として店の奥を守っていた。それがある日、ぱったりと倒れ、そのまま数か月でこの世を去った。見送ったのは清之介一人で、息を引き取る前、喜之助は清之介は遠野屋に来るべきではなかったと言う。その言葉が清之介の心に深く深く刻まれる。

 

同じ頃、江戸でも事件が起きていた。雨が降ったことが幸いし、被害は小さく収まったが女が一人火事に巻き込まれた。信次郎と伊佐治親分が調べると、火事が原因ではなく腹を刺された所へ火を放たれたことがわかる。現場からは珍しい柄の布が一枚、それが事件を紐解くきっかけとなる。

 

伊佐治親分は着物だの帯だのに詳しくはない。もちろん、簪や紅などの小物にも詳しくない。が、妻と嫁は遠野屋が取り扱う品の良さを知っていた。加えて、この頃遠野屋が新しく始めた若い職人の品を廉価で販売する催しについても知っていた。いつもは絶対に手に入らない遠野屋の品だが、廉売ならば自分たちの手にも届く。立て続けに子を亡くした嫁を元気づけるためにも、どうにかしてその催しに呼ばれたい。ついては、日頃家を顧みない伊佐治親分なのだから遠野屋にお願いして引き札を手に入れて嫁を元気づけろ、と妻から一言食らってしまう。嫁のためとはいえ、妻のためとはいえ、公私混同を嫌う伊佐治親分だが、今回は冷や汗をかきつつ清之介に頭を下げに一人で遠野屋に赴いた。

 

もちろん遠野屋は快く伊佐治親分の願いを聞き入れるどころか、もともと招待するつもりだったと引き札を渡す。安心した親分は、それから滞っている火事事件について遠野屋に語った。不審な点がいくつかあること。家の持ち主はすでに他界しており、その子供たちも全く知らないこと。そして、伊佐治親分は自分よりも詳しいはずと現場に残された布を清之介に見せる。

 

さて、「この布の手触り、どこかで見たことがあるが思い出せない」と清之介は過去の記憶を辿るがいつどこで手にしたのかどうもはっきりしない。そこで帯屋の知り合いに尋ねるとし、一日布を預かった。布を前に考える。そして、思い出した。それが遠野屋の中であったこと。持ち主は無くなった喜之助であったこと。それは帯であったこと。しかしなぜ喜之助がその帯を持っていたのか、それどころか喜之助の生い立ちから来し方まで、何ひとつ自分は喜之助のことを知らなかったことを思い知らされる。

 

なんとここでまさかの喜之助!喜之助は先代を主とし、清之介のことを長く嫌っていた。あからさまに態度に出してまで清之介を蔑んでいたが、遠野屋が大きくになるにつれ少し心を入れ替えたようではあった。しかし、喜之助は人とうまく折り合える質ではなく、遠野屋の中でも親しくしていたものはない。それがより一層喜之助を謎の人物と知らしめている。

 

翌日、仲間の三郷屋が訪れた。自分ではどうもわからないが、先代である父ならわかるかもと知恵を限る。三郷屋の先代によると、これはとある村でごく少量だけ作られる織物ではないかとのことだった。その織物の歴史が解決へのまさに糸口となる。基調な素材から作られたその織物は今や廃れてしまったと言い、江戸では手に入れることもままならないそうだ。

 

それにしても喜之助はなぜ、というあたりがなんとなくこれからも続くのではないかと思うのだがどうだろう。9巻目以降でまた姿を現すのでは?と若干期待している。10巻目も早く購入したいところだが、ひとまず手持ちの書籍を読まなくては。