Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#492 運の貯め方、使い方 ~「運転者」

『運転者』喜多川泰 著

不思議なタクシーの話。

 

今朝のニュースを見ていたら、都内の桜の開花予想日がなんと来週末とのことだった。1年開けたばかりと思っていたらもう春なんですね。早い早い。

 

さて、未読の本をどんどん読もうと決めてからKindle本と紙本を交互に読むようにしているのだが、移動が多い時はやはりKindleが優勢となる。この本はUnlimitedでも読めるのだが、確か去年の年末あたりのキャンペーン時に購入した記憶がある。評が高く、表紙がキレイだったので購入してみた。

 

本書はいわゆる自己啓発本になるだろう。『夢をかなえるゾウ1』のように窮地に陥る主人公の前に何か次元を超越したような存在が登場し、導いてくれるというお話だ。本書の場合はそれがタイトルにもなっている「運転者」で、タクシーの運転手として主人公の前に登場する。

 

主人公の岡田修一はトップランクには入りえない都内の大学の経済学部を卒業し、中古車販売業を経て、今は保険の外交員をやっている。中学生の娘が一人いるが、このところ登校拒否気味で家にこもったままだ。中学生の子供がいるわけだから、修一は恐らく40代のサラリーマンだろう。

 

保険の外交員のお仕事に馴染みがなく、本書を読んで驚いたのだが外交員になると1年目の給料は固定制で割と高額の収入がある。ところが2年目からは完全歩合制になるので、契約を取れなければそれがもろに給料に影響を及ぼすらしい。もっとすごいのは契約して1年以内に解約されてしまった場合、その契約金は営業が返却しなくてはならない。遊んでいても契約が取れる人もいれば、どんなに努力しても全く実りを得られない人もいる。修一はその後者だった。

 

さて、そんな修一の前に突然現れたタクシーは、メーターにすでに数字が刻まれていた。それも万の単位の金額で、不思議なことに進めば進むほどメーターの数字は減っていく。修一はこのままで家族を食べさせていけるのか、将来大丈夫なんだろうかと心配が募るあまりどうも不機嫌な態度を取りがちだった。誰よりも自分は運が悪いと思っていたし、上司の口癖「プラス思考」なんて絶対あり得んと心の中で反発していた。

 

それを指摘し、常に上機嫌であれば運がやってきた時に見逃さない自分になれる。と説いたのがそのタクシーの運転手だ。突然現れては行先も告げていないのに修一にとって必要な場所というところへ連れて行く。その道々での話はわかりやすく、納得できることも多かった。

 

運は貯められる。それは自分が貯めただけではなく、先代や先々代、何百年も前から貯められているものを後世の人間が享受している。運とはポイント同様で、貯めることも可能。貯まった時に使うのも可能だ。ポイントを貯めるだけで使えなかった人もいれば、自分が貯めず先人が貯めてくれたポイントを使いつぶすだけの人もいるだろう。

 

運を貯めるためには「誰かの幸せのために自分の時間を使うこと」らしい。貯める例として、こんな話があった。

 

「岡田さんが休みの日一日を使ってご友人の引っ越しを手伝ったとしますよね。これ、友人の幸せのために自分の時間を使っていることになりますよね。その引っ越し後、友人が岡田さんに手伝ってくれたお礼に、ということでウナギをご馳走してくれたとします」

車は鰻屋の横を通り過ぎた。

「してあげたことが『引っ越しの手伝い』で、してもらったことが『ウナギのご馳走』です。どうですか?してあげすぎたって思いますか?それとも、してもらいすぎだって思いますか?」

「う〜ん。まあ、妥当なんじゃないのか」

「なるほど。そうすると、運は使ってもいないし、貯まってもいないと考えていいです。ところが、お礼にその友人が二十万円包んでくれたとしたら、どうですか?」「そりゃあ、もらいすぎだろ」

「ですよね。そのときには運を使ったと考えます。だから逆に、何もお礼がなければ……

「運が貯まった……ということか」

「そういうことです」

 

ものすごくストンと落ちる説明だった。

 

会社勤めをしていると、いろいろな理不尽に遭遇するわけで、世渡りの上手さだけで昇進したような人を見るたびに「あの人は運がいいなあ」と思っていたが、もしかするとこの人も自分の貯めた運や先人の貯めた運を使っていただけで、自分は運を貯めることも使うこともしていなかったのかもしれない。

 

自分はその運を使うだけの人間になるか、それとも後世に残す人間となるか。

 

自己啓発の本を読むと、その時は「よし、がんばるぞ!」と思うのだが、なかなか持続しないのが問題だ。ただ、本書のようになにか心に残るというか、読んだだけでふと納得できるようなことに出会えると、ちょっとしたターニングポイントとなっていくことがある。私にとってのそういう本はすでに何冊かあって、しかも読みたくなる時期やタイミングが頻繁に訪れるから忘れることもない。本書もきっと後で読みたくなるであろう一冊になること間違いなし。