Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#458 上司が無能なので歴史から学ぼうと思ったのですが…~「わが殿 上・下」

『わが殿 上・下』畠中恵 著

大野藩士の幕末。

 

さて、「まんぼう」ですね。私の勤める会社は時短も、時差出勤も、リモートワークも一切実施せず通常業務と変わらない対応を取っている。リモートになることを期待していただけに、より一層月曜日にかかる気持ち的負担が大きいような…。

 

週末、昨今の会社内の環境について思うところがあり、本書を読み始めた。上下2巻となっている。表紙のイラストからも、そして「あの」畠中さんの作品だからという理由で明るいイメージでモチベがあがることを期待しての読書だったのだが、内容は「歴史小説」で、ヒーローと凄腕の部下のお話…。

 

考えてみると畠中さんは「しゃばけシリーズ」の印象が余りにも強すぎて、読者は勝手に過去を舞台とする歴史ファンタジーの担い手として見ているきらいがあるのかもしれない。私もその一人で、つい笑いを求めてしまっているところがあった。ところが本書は一切のコミックリリーフ的要素もなく、淡々と大野藩の幕末の姿を綴っている。

 

歴史に則した内容と思われるが、無知な私はそもそも大野藩についての知識がなかった。まっさらの状態で読み始めたので、途中途中で大野藩について検索し、情報を入れる必要があった。結構な頻度で検索したので、もう少し本書内に補足があってもよかったかなーと思う。

 

大野藩は今の福井県大野市越前大野城を構え、江戸に3つの屋敷を持っていた。大野藩を司るのは土井家で、利忠時代の繁栄期が舞台となっている。わが殿、利忠には忠実な部下がいた。そもそも忠実だったのは利忠に才があったからに違いないのだが、傍に使える内山三兄弟は大野藩の発展に大きな影響を与えていたようだ。

 

もちろん利忠の実績も注目に値するが、本書はその中でも長男の内山七郎右衛門のマネーリテレラシーの高さが軸となっている。そもそも大野藩は小藩で4万石とは言いながらも実質はそれより少ない石高だったようだ。ただ、金を作る手段はあった。面谷銅山が領地内にあったからだ。ただ、生産を安定させるのは難しく、投資は繰り返さなくてはならない。

 

そこで、利忠は膨れ上がるばかりの藩の借金をどうにかせねばならぬと七郎右衛門に白羽の矢を立てた。結構なむちゃぶりだけれど、結果として完済したわけだから利忠には人の才能を見抜く力があったのだろうと思う。さらには部下に慕われていただろうから、役目を与えられれば必ず結果を残したのだろう。互いへの信頼感の大きさが羨ましい。理想的な上司と部下の関係だ。

 

読みどころは七郎右衛門が藩の財政を切り盛りしていく様子だろう。士農工商がはっきりしていたので武士は商売事に疎いというのが通説だったが、七郎右衛門はなんと藩の店を作ってしまったから驚き。最初は藩の名産品であったタバコを売ろうと大阪に大野屋を開く。それからはどんどんと各地に拡大し、最終的に蝦夷地に行くから船作る!と、やることなすことが大胆。

 

七郎右衛門のお金のやりくりには、本書を読む限りでは「絞る」の部分はそう多くは見えてこない。上巻の最初のほうで利忠が実施した倹約令は別として、七郎右衛門が実施したものは出てこなかったような気がする。むしろ七郎右衛門のすごさは「生む」力がものすごかったことではないだろうか。融資を得るにしろ、売却して作り出すにしろ、トップがあれこれ新しいことをやりたいと手を出せば、ちゃんと資金を作り出してくるし、借りた金はちゃんと返す。

 

本書はあくまでも小説であって伝記ではないから、七郎右衛門が実際に取った政策や大野屋を大きくするまでの詳細には触れられていないし、ところどころ端折った部分は駆け足で過ぎていく。利忠の臨終もとてもあっさりだし、読み進めるほどに歴史的背景に興味が出てしまうせいか、どんどん物足りなさを感じてしまったという点は否めない。小説というには固いし、歴史読み物としては物足りないという感じだろうか。

 

歴史小説といえば、今まで読んだ中では関寛斎の一生を書いた高田郁さんの小説が面白かった。

 

今の千葉県生まれの医師一家の話で、千葉から徳島、最後には北海道へと開拓へ出た人たちの話だ。登場人物の心に寄り添えるようななめらかな流れで感動の一冊だった。

 

さて、なぜこの「わが殿」を読んだかと言うと、勤め先の上司が本当に困った人すぎて日々のストレスがどんどん膨らんでいるからだ。ああ、でも利忠はなんの参考にもならなかった。だって才能があるし、人望があるのだから!!! そして七郎右衛門のように上司の才能に触れ、殿を盛り立てたいというピュアな心がない限り、互いに支え合い社を盛り立てていくなんてことにはならないと痛感。ごめんなさい。私にすご腕部下の役割は無理です。せめて心穏やかに働きたい(涙)