『おいしいもんには理由がある』土井善晴 著
日本の美味。
近所の書店でみかけた一冊。そういえばこの頃書店のリモデリング等の工事に当たることが多く、これは書店が息を吹き返そうとしているからだ!と期待を抱いている。地方都市では読書を楽しむ人々が減ったことや、電子書籍愛用者が増えるなどの理由で街の本屋さんが無くなり始めたという話を聞くようになって久しい。
大きな書店もきっとその影響は受けているはずで、以前よりも仕入れの数を減らすなどの工夫を凝らしていることだろう。あとはこの頃のインバウンドの影響でマンガ本などを充実させたり、文房具を取扱うスペースを増設するなどの変化もある。
ちらっと立ち寄った本屋さんで何か読みたいと思える本に出会える幸せはネット書店でのそれとはまた異なる。表紙のインパクト、本の大きさや重さ、そして紙の素材でカラーページの様子も異なる。
本書はまさにそれらの利点に一気に捉えられたような一冊だった。写真の美しさや文章と写真のバランスなど、これは紙で読むべき作品です。
さて、本書は土井先生が日本各地の「おいしいもん」を探りに生産者のもとへ足を運ぶという紀行文にもなっている。しかしフォーカスがあたっているのは食べ物で、きっと一般人では立ち入れないだろうなあと思われる老舗名店にも訪問しておられる貴重な一冊だ。
訪問された地域は数多く、日本各地の20地域にも及ぶ。北海道えりも町の昆布から始まり、最後は長崎の洋菓子で終わる。基本となるのは食材だが、大阪の吉兆や伊勢の赤福などすでに広く知られる所も紹介されており、多種のおいしいがここにあった。
一番驚いたのは和三盆だ。和三盆の生産地は香川県と徳島県だが、今回は香川の生産者を訪問しておられる。和三盆と聞くと、お砂糖そのものの場合と落雁のように美しく固められたものの二つを想像する。四国に行く度にその固められたものを購入する。最初は見た目の美しさに惹かれてなんとなく買ってみた程度だったのだが、口の中にさっと溶ける甘さは私にとっては「滋養」そのものであった。一つ食べるだけでもかなり元気になれるスーパースイーツと言っても過言ではない。
その和三盆、こんな風に木型で作られるのですね。なんと美しい。
きっと同じ様に考える人が多いのだろう。Amazonでも和三盆のページが紹介されている。
本書で紹介されている名品は、名品であるだけに後継者に恵まれている。家を継ぐ意思を持たれ、帰省し家業を繋ぐ。一方で同様に伝統を有し日本人に愛されていた食であっても、時代の流れと共に消費が減り、後継者問題に苦しむ事業も多い。
土井先生に限らず、こうして日本古来の「おいしいもん」を守るべく私たちの食を紹介してくれる書籍は多く、この頃はこういった書籍をもっと読むべき、学ぶべきと考え進んで購入している。全て紙の書籍で長く保管しながら大切に読む予定だ。土井先生の文章には食べることへの愛と作る方への感謝に溢れており、読んでいると豊かな気分になれる。そしてああ、和食って素晴らしい!と心がすっと澄む感じ。
これは読む食育です。