Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#461 私のストレスなんてまだ軽い方でした ~「ちょっと今から仕事やめてくる」

『ちょっと今から仕事やめてくる』北川恵海 著

新入社員、青山。会社を辞める。

 

さて、うまく自分の機嫌を自分で取ることが出来なくなり、ついにワークライフバランス関連の本でも読もうかなーと思うようになりまして。本書は以前何かのバーゲンの時に購入したと思われるもので、自分でも買ったことを認識していなかったところを見ると、思った以上に根は深かったのかも…

 

本書の主人公は大卒で印刷会社に就職した青年で青山隆という。会社生活に心がズタズタ。ついに会社に行きたくないという思いから死を考える程となってしまった時、電車待ちをしながらふらりと体が揺れた。あわや!という危機一髪の状態を救ったのは自称同級生のヤマモトだ。電車に飛び込みそうになった瞬間、青山の腕を引いた。救われた青山はヤマモトという同級生のことを覚えてはいなかったが、誘われるがまま居酒屋に行き、以降旧交を温めることとなった。

 

そこから青山を支えるヤマモト、ヤマモトの本当の姿、会社の闇が見えてくるというストーリー。本編には何かの文学賞の受賞作も一緒に収められていたのだが、私はこの作品のみを読んだ。

 

新入社員に関わらず、それぞれの世代が会社においてそれぞれの悩みを抱えていると思う。経営者も、役員も、上司も、部下も、「働く」ことへの悩みを持っていると思う。私も、あなたも、きっと「明日会社行きたくないわー」という夜を迎えた経験があるはず。主人公の青山は、まず環境がかなり可哀想過ぎる。設定は都内にある中堅の印刷会社の営業ということだからそれなりの規模があると想像しての意見。

 

● そもそも会社の構造が謎

⇒ 青山にパワハラを振るっているのは部長。ただ一方的に能無しだと怒鳴るだけで、建設的な指導などは全くない。自分で部下を引っ張るタイプでも、業務の責任を取るタイプでもなく、営業不振による責苦が自分に来るのが嫌がために部下を怒鳴り散らすだけの上司だ。会社によってはこういうこともあるのかもしれないけれど、営業部署に所属された新人の直属の上司が部長?役職つかない平社員と部長の間には課長とか係長とかチームを統率する人がいるのでは?と読みながら思ってしまったけれど、部長も怒鳴るだけで仕事を俯瞰し管理している立場でもなさそうだし、中堅なのに会社のビジネスを支える構造がないのがそもそも謎すぎる。だから部長も騒ぐだけでなんの対応もできない上司に育ってしまったんだろうな。

⇒ トラブル回避、リスク回避の観念が薄くそのための構造を持ち合わせていなさそうなので、悪が蔓延るには格好の会社かも。

 

● 新入社員に仕事を教えるシステムがなさそう

⇒ やっとの思いで受注を取るも、ミスの連発で結局部長に怒鳴られる始末。ミスが発生したのならば原因解明して再発させないための教育があってしかるべきだろうし、そもそもメールなり社内のシステムなり、進捗状況を共有しているのでは?情報を共有していなければ、急な事態に対応することもできないよね。

⇒ どのような受注発注システムなのかわからないけれど、発注時に詳細をダブルチェックしたのに実際の指示内容が異なるなんてことが本当にあるのだろうか。そもそも、その受注案件の生産に対する承認は誰がしているのだろう。本書を読む限り青山が受注発注に責任を負っているようだけど、何が起きているのか上の人間も無関心だったということだろうか。相手先と自分の1対1のやり取りならば、どんな風にリスク回避の手段を取っているのかも謎。

⇒ しかも新入社員の青山が大型受注となりそうな担当先を一人で担当していたそうな。課内の人材不足など、どうしても一人で数件を担当することもあるにせよ、まだ駆け出し数か月の新人さんを放し飼いってどうなんだろう。

⇒ ミスの度に一人でお詫びさせられて、上司どうしたよ!と思ってしまう。そもそも、新人教育って自分の業務の上にプラスして対応しなくてはならないから、教える側は結構大変だったりもする。でも、教える側だってちゃんと学びを得ているし、頼もしく独り立ちしていく様子を見る喜びだってある。対応の道の見えない新人一人の肩に責任乗っけるって相当ひどいよね。そもそもまともな社員を育てようという概念のない会社だからこんなことになってるんだろうな。

 

● 課内のコミュニケーションがゼロ

⇒ 全体に渡り、青山が社内で会話してる人は部長と先輩1名のみ。その他社員は見て見ぬふりなのか、青山と会話するシーンは皆無で課内で助けを差し伸べる先が一つもない。先輩という人も励ましの言葉くらいで具体的な指導も内容だし、全体的に漂う異様な雰囲気がすごすぎる。

 

他にもあれこれ疑問を感じる部分は多々あったのだけれど、なんだかかわいそうな気持ちが先に立ってしまって、読了感は自分のこの頃の状態もあってか余計にゲンナリしてしまった。

 

私は営業担当ではないのですべてに共感できます!というわけではないけれど、会社の闇については「ああ、それよくわかります」とは思える部分があった。仕事で悩むという主題の小説だと営業部署が話題になることが多いし、実際日本のビジネスにおいては営業部署に所属する人の方が多く想像がつきやすいからかもしれない。ぜひコーポレート部門が出てくる小説があれば読んでみたいと思う。

 

世の中にはいろんなハラスメントがあるから、これからも会社が舞台の小説が出てくると思うし、本書への意見も悩みの数だけ人それぞれだと思う。個人的な意見なのでなんの目安にもならないが、心と体が蝕まれるようなら青山のようにその原因となっている職場から脱出することが必要だろう。環境をかえることでまた息ができるようになるはず。収入源が断たれることに不安を抱くこともあるだろうけれど、でも今生きている心地がしないのならばまずは逃げることだと思う。この本を読む限り、私のストレス源なんて本当に些細なものだと思うに至った。怒りを抑えるこつを身に付けなくては。

 

私の闇は、上の人間が働かないことです…。本当にいい加減にして欲しいという気持ちが今一番のストレス。むしろ部長、お前が辞めろ、と言いたい。