Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#448 お金の使いかたは人を表す ~「三千円の使いかた」

『三千円の使いかた』原田ひ香 著

お金の大切さを学ぶ。

 

 

そういえば年末に読んだのにメモを忘れていたことに気付いた。たまたま書店に行った時に見かけた本書、手持ちの著者の作品を読んでから購入しようと読み始め、すぐに購入を決めた。

 

 

Amazonでの評価が高かったのも頷ける。テーマは誰もが常に心の片隅に置いている「お金」のことで、その使い方について「さあ、あなたはどんなお金の使い方をしていますか?」と問う小説になっている。

 

主人公の美帆は就職を契機に都内の実家を出て、会社の近くで一人暮らしを始めることにした。一人暮らしを始め、急に自由が増える。自分の思ったように、好きなように動くことができる。それがある日会社の先輩のリストラから美帆の周りが変わってきた。彼氏との諍い、心を温めてくれた動物との思い出、そして自分の実家との関わり合い方。後になれば「あれがターニングポイントだったな」と思えるようなことだが、美帆にとっては突然問題が降って来たわけだ。

 

美帆の姉、真帆は就職してすぐに当時付き合っていた消防士の彼氏と結婚した。そして結婚と同時に会社を辞め、今は専業主婦として暮らしている。娘が一人あり、実家の近くに暮らしている。もともとしっかりもので、証券会社に勤めていたせいかお金への対し方はシビアだ。実家は父と母の二人暮らし。実家の近くには祖母の家もあり、何かと行き来もしている。夫の収入は決して高いものではないので、コツコツとお金をためている。

 

美帆が急にお金について真剣に考えるようになったのは、犬を飼いたいと思ったからだ。動物が飼える賃貸はものすごく数が限られている上に高いから、それなら家を買おう!と思い立ったわけだ。そこでお金を貯めるにはどうすべきかを真剣に考える。そんな時に思い出したのが祖母の言葉だった。

 

それはティーポットの購入に見る祖母、真帆、美帆の違いに関わるもの。祖母はロイヤルコペンハーゲンのものを長い間大切に使っている。母は北欧ブランドのもので友人からの贈り物を使っている。真帆は琺瑯のケトルとしても使えるもので、気に入ったからとお金を貯めて購入したらしい。一方美帆はガラス製のシンプルなティーポットを購入しようと考えていた。お値段、ちょうど3000円。その金額を見て、昔祖母に言われたことが頭を駆け巡る。

 

「人は3000円の使い方で人生決まるよ。」

 

3000円という金額が重みを増す。まず、このくらいの金額ならば小学生でもお小遣いを貯めるとか、お年玉とか、手元にありそうな金額だ。大人ならばもしかすると考えずに使ってしまう金額かもしれない。手に届きやすい金額だからこそ、読者も自分の話として小説にシンクロしていくのだろう。登場人物の様子に「ああ、わかるわー」な所が一つ二つではない。とてもとても身近な世界が語られている。

 

美帆は結局このガラスのティーポットを買いはしなかった。もろくて割れそうで、祖母の話を思い出すほど、それがふさわしいとは思えなくなったから。お金の使い方は人を表すのかもしれない、という思いがふと心に湧いてから、美帆は自分のお金の使い方を真剣に再考する。節約の達人である姉に相談し、自分の今のライフスタイルを根底から変えていくことにした。

 

お金について、みな思うところがあるはずだ。美帆のように今現在、お金が無くて困っている人。真帆のように目標があって貯めている人。両親や祖母のように老後が心配な人。登場人物のお金事情に重なる部分が見られるせいか、つい自分のことが気になってしまい、通帳やら財布に思いを馳せることになる。そして読み終わる頃には美帆の成長に乗じて自分もしっかりやっていこう!と引き締まった気持ちになった。

 

収入が増えるにつれ貯金も増えるかと思いきや、使える額が大きくなると逆に貯めることが苦手になるというデータがあるらしい。美帆の祖母は夫と暮らした家と残してくれた退職金1千万が手元にある。70過ぎて1千万を持っていても「老後が心配」と思うらしい。美帆の両親や祖母の不安は、これから定期的に入ってくるお金が無いことや、増える要素が思い当たらないからだと思う。若い頃は「今」が楽しすぎて将来のことなんて考える余裕もないけど、結婚して子供が産まれたなら子供の将来を通して自分たちのお金事情を考えるはず。そして退職する頃になれば、今あるお金を切り崩して暮らす以外の方法はないに等しいだろうから、もっともっとお金を切り詰めるのかもしれない。

 

ところで、今までお金の使い方に関する本で感銘を受けた本が1冊ある。

 

 

この本を読み、私の衝動買いは激減した。自分の血となり、肉となり、知恵となり、喜びとなるものに集中しよう!という思いを強くしたからだ。何にお金を使い、その買ったものをどう使うかで物の価値は大きく変わり、費用対効果に大きな差がでる。

 

私はどちらかというと自分の意見というものが薄くて好き嫌いくらいもぼんやりしてたし、信条や社会についての意見もものすごくざっくりした表現しかできなかった。人に反対されたり、感情をぶつけられたり、否定されるとすぐにひよってしまい、迎合してしまう。そんな弱さを表に晒さないようにするには、周りに合わせてしまうことが一番楽だ。とりあえず悪目立ちしないように流行から反れない程度の物で身の回りを固めていたけど、その頃は本当にお金の使い方はひどいものだったと思う。どうして「欲しい」のか、流行ってるからだ。それ以外の理由はなかったように思う。

 

それが変わってきたのは外国に暮らしたことが大きかったし、就職して定期収入を得、自由に使えるお金ができたことも一因していると思う。海外では「同じ」である必要はないし、そもそも日本から持参したものを身に着けていると、周囲と「同じ」になりようがない。現地の通貨を円換算して「こんなに高いの!?」とか「この質でこの価格?」など価値観とお金を結びつけるようになった気もする。

 

ただ一つ、逃げていることがあるとすればやっぱり老後の漠然とした不安のせいで、逆に怖くて計画を立てずにいることだろうか。保険の見直しとか、年金なんて出ないだろうから生活費をどうするか、今から準備しておかなくちゃ。頭ではわかっているのに何もできずにいる。今年はお金の使い方を考えることを目標にしているので、今だからこそしっかりやっておきたいと心新たにした。

 

美帆がお金について考えるようになり人として成長していく様子、そして美帆の家族の問題も全てが成長につながるようなポジティブなストーリーなので、自分のお財布事情がどんなにギリな状態であっても「これからがんばるぞ」と思えるし、もっと言えば就職など定期的なお金が入ってくる時期に読んでいたらと思える一冊だった。