Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#345 シリーズの一貫性って大切ですよね

 『ひらいたトランプ』アガサ・クリスティー

ポアロシリーズ第13弾。

 

ちょっとした読書不調に陥っている。読書不調とは私の作った造語で読書に没頭できていない状態や読書に喜びを見いだせなくなっている状態を表現する時に使う。例えば「最近何か変わったことない?」と聞かれた時、「うーん、特に無いけど強いて言えば読書不調かなー(意味:特に変わったことはないけれど、読書が一行に進まないor楽しくないor没頭できるほどにのめりこむ本が手元に無い etc....)」という感じで使っているのだけれど、聞き手もなんとなくわかってくれている風。

 

こういう時は目で文字を追っていても頭に内容が入ってこなくなる。そして全く内容とは関係ない事柄が頭の片隅に湧き出して、むしろそちらの占める割合が本の内容よりむくむくと大きくなってしまう。恐らく理由はただ一つで今読んでいる本に興味を抱けてないということなのだろう。例えば試験前の切羽詰まった状態なのに、好きでもない分野の内容は全く頭に入ってこない。勉強しなくてはならないのは重々わかっているのにもかかわらず頭の中は全く別のことを考えてしまう感じ。さして興味のない分野も「楽しい!」と思えるスイッチが入ればのめりこめるのだけれど、それがなかなか訪れないこともしばしばだ。

 

今の読書不調は恐らく夏休みの課題図書が原因なのだと思えてきた。この夏はアガサ・クリスティーシリーズを読もうと決めているわけだけれど、確かに1冊読むのに時間が掛かっているし、並行して他の本も読んでいるのだけれど、そちらはわりとサクサク読めてしまったりしているので原因はきっとここにあると思う。

 

次にアガサ・シリーズのなにが問題かも考えた。それは「推理小説」という分野のせいなんだろうか、それともアガサの描いた背景?それとも他になにかあるのかもしれない。例えば時代小説を読み始めてまだ数年になるが「飽きた」と思ったことは一度もない。好みに合わないとか、あんまりおもしろくなかったとか、そういう嗜好の差による感情はあるにせよ、だからといって読むこと自体がめんどくさくなったり、眠くなったりということは起こらなかった。私が知らない他の楽しい時代小説があるはずだ、とパソコンの前に座り、Amazonを立ち上げ、レビューを読み漁ることだろう。

 

おかしい。通常私は読書こそ一番の気分転換と思っているし、旅行に行くのにも必ず本を持参し現地でも購入してきたほどで、旅行よりも読書のほうが現実逃避できているはずなのに。それなのにこの頃はNetflixやHuluでアニメやドラマや映画を見ている時間のほうが増えてきた。(ちなみに今はHuluでD.Gray-manを見ている。余談だが、いつもグレーの英語表記を間違える。Grayはアメリカ、Greyはイギリスでよく使われているのだけれど、それ以外の国のときはどちらだったかな?と必ず迷う。)

 

とにかく、不調の原因を探らねばという思いを頭の片隅に置きつつ本書を読んだ。まずは基本情報を記そう。

 

Title: Cards on the Table

Publication date: November 1936

Translator: 加島祥造

 

そもそも、クリスティー作品を読み始めて、タイトルがしっかり頭の中に入っていない状態で読み進めることの方が多い。ここに記録するにあたり英語のタイトルを改めて知り「いや、そっちのほうがわかりやすいし」と心の中で呟いている自分に気づく。今回の英語のタイトルであれば、「テーブルの上にカードが置いてある。そのカードがどのようなカードなのか、整然と並べてあったのか、乱雑に置かれていたのか、枚数はどのくらいあったのか、ビジネスカード?タロットカード?読書カード?」などなど想像したであろう。和訳は「ひらいたトランプ」で誰かが任意にトランプの1枚を裏から表にひっくり返したような印象を受けた。そもそもトランプという種明かししちゃっているし、cardsという単語から推測する読者の想像の楽しみが半分減っている。

 

まあ、それは良い。とにかく、ストーリーにはトランプが登場する。今回もポアロの親友のヘイスティングズは登場せず、ストーリーの最初に登場した「序文」なるものの最後にこんな感じで登場している。

 

 この 小説 について さらに 付言 する と、 これ は 例 の エルキュール・ポアロ の 自慢 の 手柄話 で ある。 しかし 彼 の 親友 ヘイスティングズ 大尉 は、 ポアロ から、 この 話 を 手紙 で 知らさ れ、 非常 に 単調 だ と 思っ た。  

 読者 の みなさん は、 果たして どちら の 意見 に 軍配 を あげる で あろ う か。

 

これ以外は一切登場しない。今回序文が設けられているのは恐らく語り手がunknownだからで、第三者が語る差しさわりのない感じにまとまっている。これがヘイスティングズであればもっと「その時ポアロはこうだった」みたいな内容があるけれど、今回はそれぞれの登場人物を第三者が淡々と語る風だ。

 

ポアロは煙草の展示会とやらでシャイタナ氏と言う人物に再開する。この人物は自らミステリアスな雰囲気をまとうべく恐ろし気な自分を演出しているタイプの人のようで、周りの人からはお金持ちで怖い人と思われているらしい。一方のポアロはちょっとめどくさい人程度の扱いで、それはポアロの自慢のひげに負けないほどのものをシャイタナ氏持っていたからだ。そしてこのシャイタナ氏は、

 

シャイ タナ 氏 が アルゼンチン 人 か、 ポルトガル 人 か、 ギリシャ 人 といった 英国 人 の きらう 国籍 を 持っ て いる 人 なのか どう か 誰 にも 明らか で なかっ た。

 

といった風貌の人らしい。そこで調べてみた。Shaitanaという苗字はどこの国に多いものなのかをチェックすると、

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なるほど、インドがメインであるらしい。

 

その 点 では シャイ タナ 氏 の 人物 全体 が 人目 を ひい た。 また、 そう なる よう に 配慮 もさ れ て い た。 わざと 悪魔 的 容貌 に 見える よう にと 慎重 に 考え た 風采 なの だ。 背 の 高い、 痩せ た 男 で、 顔 は 長く、 陰気 だっ た。 眉毛 は 厳し さを 強調 する よう に、 黒かっ た。 上唇 には、 端 を 油 で 固め た 口ひげ を たくわえ、 顎 にも 黒い 短 いひ げ を はやし て いる。 着 て いる もの は、 凝っ た 断ち 方 の 素晴らしい もの だ。 ただし ぴったり し すぎ て、 怪奇 な 感じ を 与える ほど だ。

 という説明があるので、確かにインドの人とも言いうるけれど、アラブ的な特徴のようにも思えてくる。この時代、すでにインドの人々が英国で暮らし始めているはずなので、もしかすると中東よりのパキスタンの人かもという思いを抱いた。

 

さて、そのシャイタナ氏は裕福な生活ゆえにコレクションも数多く、それをポアロにぜひお見せしたいとパーティーを計画する。それもポアロの専門分野についてのものもあるらしく、そのコレクションというものがポアロの関心を引く。

 

当日パーティーに招待された客はポアロを含め8人で、後に2チームにわかれてブリッジというゲームをすることになる。ここでタイトルにあるcardsがトランプであることがわかるのだけれど、私はブリッジというゲームに馴染みがなく、賭けが出来るタイプのものとなると心理が鍵となるタイプの推理になるのだろうなーとぼんやりと予見できるのだが、やはりここでまた事件が起こる。

 

今こうして思い出して書いているだけでも後味の悪い映画を見たような気分になってしまうのだけれど、これはきっとブリッジを知らないからだろう、と思う。例えばこれが麻雀やUNOみたいにわかりやすいものだったらその現場をどこかからこっそり覗き込んでいるような臨場感で読み進められたのかもしれないけれど、ブリッジの話で意識が断絶されてしまったのかもしれない。とすると、ブリッジを知らない読者はみな私のように軽く読み飛ばしていたのだと思う。

 

今回の翻訳は第10弾を訳された加島さんがご担当されている。

 

 

そこで気が付いたことなのだけれど、1弾目から読み始め、同じ翻訳者が担当するのはこれが初のこととなる。同じ翻訳者でありながらも、翻訳の文体、人称の呼び方、フランス語や原語をルビとして挿入する条件など、13冊も出ているのにまだまだバラバラなのが読み手を疲れさせる原因のような気がした。

 

私はめんどくさい読者のようで、普段読んでいる本や新聞・ネット記事に誤字脱字を発見してしまうことが多い。これは小学校の先生の読書方針の賜物に加え、学生時代に校正のバイトをしていたことが原因と思うのだけれど、ミスを発見する度に一瞬頭の中に描いていたストーリーが途切れてしまう。読み飛ばしていても無意識に「あれ、これ違うよね」「誤植だし」という思いがさーっと頭の中に流れ込む。クリスティー文庫の場合は翻訳者の個性輝く翻訳を重要視しておられるのかもしれないけれど、統一感が無くばらばらで、シリーズ全体を一つの流れとして捉える時に辻褄合わない部分があると思うのはあまりにも生意気な意見だろうか。たった13冊にして読み疲れ状態で次の作品に挑んでいるせいか、読む前から一定の期待感がすでに削がれているような気がしてきた。

 

とはいえ、100冊近くすでに購入済みなのでこれからも読み続けるけれど、合間に適度にごちそう読書を入れて調節しないことには読書不調は終わらないんだろうなあと思う。

 

評価:☆☆

おもしろさ:☆☆☆

読みやすさ:☆☆