Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#333 なんだか既視感のある「アメリカ人女優」

 『エッジウェア卿の死』アガサ・クリスティ

ポアロシリーズ第7弾。貴族の死をどう解くか。

 暑い。こんなに暑い都内でオリンピックが進んでいるわけだけれど、オリンピック選手の皆さんはこの暑さに調整が大変だろうと思う。温度もさることながら、東京の夏は湿度も高いのでより暑さが体に堪えるのでお気をつけて頂きたい。そんな中での日本選手の快進はオリンピック反対派もついついがんばれ日本!と応援していることだろう。最後まで無事に進んでほしい。

 

ということで、クリスティーの夏を堪能する日々はまだまだ続いている。とはいってもこれでまだ7冊目だから先は長い。ガイドブックは100冊紹介しているので楽しみは続く。年末までに読み終われればよいのだけれど。他にも読みたい本もあるので、ゆっくりゆったり読んでいこう。

 

さて、今回も基本情報をおさらい。

Title: Lord Edgware Dies

Publication date: September 1933

Translator: 福島正実

 

翻訳家の福島さんはWikipediaのリンクにもあるように、作家であり翻訳家である。日本のSF小説業界を支えた方で、児童文学にSFを取り入れたり、映画など映像作品の原作などもある著名な方。本書は1955年に翻訳されたものなので、すでに60年以上前の翻訳作品ということになる。読んでいると若干の違和感を感じるところもあるけれど、そんなに昔の翻訳であれば納得。

 

いつも思っていたのだけれど、イギリス貴族の称号や地位はとても難しい。改めて調べてみると、Ladyの対になるのがLordで、侯爵(Marquesses)、伯爵(Earl)、男爵(Baron)、子爵(Viscount)に使われ、日本語では「卿」と訳されるらしい。とすると、エッジウェア卿は具体的にはどういうお立場なのだろう。Lordでは具体的な爵位まではよくわからない。

 

今回もポアロの親友ヘイスティングズも登場し、彼がストーリーを語っている。今回の舞台はイギリスで、貴族の死をポアロが追求していくもの。このエッジウェア卿には美貌で有名のアメリカ人女優の妻があるのだけれど、夫婦仲はすでに冷めており別居していた。妻はサヴォイホテルに滞在し、華々しい生活をしている。卿には前妻との間に一人娘がいるのだけれど、娘は父親には全くなついていない。

 

このアメリカ人女優がポアロと知り合いになり、自身の離婚のサポートを依頼するところから物語は進むのだけれど、美人がたくさん登場する内容なのにヘイスティングズはあまり関心を向けずで結婚すると落ちつくものなのね~とストーリーとは別の見方も楽しんでみたりもした。

 

ストーリーを読み進めるにあたり、「アメリカ人女優」「貴族(というか爵位)好き」「ファッションへのこだわり」などのキーワードが浮かんで来るのだけれど、これだけでも「おや???」と既視感。このアメリカ人女優はエッジウェア卿との離婚の後は俳優と再婚かと思いきや、なんと公爵(Duke)との結婚を考えている。その公爵は全くもって女性と縁のないタイプで決して見栄えするタイプではなく知的な人だ。このあたりで既視感薄れるのだけれど、昨今の英国王室にもこんな話があるではないか!ソーシャルクライマーとして書かれたアメリカ人の登場人物を見ていると、アガサの暮らした100年前でも英国と米国ではすでに近いようで遠いものがあったのかもなと思う。

 

トリック的なものも「あっ!」と言わせる華やかさもある上に登場人物の真の姿がなかなか見えずで最後まで見えないところがおもしろい。とくにベルギー人であるポアロアメリカ人女優がイギリスの上流階級に接近するという違和感が見事だと思った。

 

しかしここまで7作、全て翻訳者が異なっている。よってポアロヘイスティングズの関係もため口で軽口を叩く関係なのか、互いをリスペクトする(英国らしさのある)関係なのかが全く分からない。今回はmon amieをは「あなた」と訳されていていきなり丁寧感が上がってきた。これ、いつか統一して欲しいなと思わずにはいられない。

 

評価:☆☆☆

おもしろさ:☆☆☆☆

読みやすさ:☆☆☆