Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#115 知らない食材に出会えるから時代小説が好きなのです

『ほろほろおぼろ豆腐 居酒屋ぜんや』

神田花房町にある居酒屋ぜんや。お妙の絶品料理を目当てにお店の旦那衆から侍までが舌鼓を打つ。 

ほろほろおぼろ豆腐 居酒屋ぜんや (ハルキ文庫 さ)
 

 

待ちに待った居酒屋ぜんやシリーズの9冊目。高田郁さんの『みをつくし料理帖』があまりに面白く、料理がらみの時代小説を探してみようと書店をうろうろしていた時に偶然みつけた1冊である。今や「次はまだか」と待ち焦がれる作品となった。そもそも『みをつくし』シリーズを読むまで時代小説など買ったこともなかったので、まずは同じ出版社のものをと時代小説文庫のコーナーに立ち寄ったのだが、時代小説の一角がどこにあるのかすら探すのに苦労した。

 

居酒屋ぜんやシリーズ、料理人はお妙という美人後家である。もともと堺の出なのだが、幼い頃に二親を無くし江戸へ来た。お妙を江戸へ連れてきた善助は、元は父の下で働いており、お妙とは一回りも歳が離れていたのだが、後に夫婦となり神田に居酒屋ぜんやを開く。ところが善助は何者かによって命を奪われ、後家となったお妙は善助の姉、お勝とともに二人で居酒屋を切り盛りしていた。

 

そこに現れたのが商家になることを夢見る弱小旗本の次男坊である林只次郎。これがまたとても愛嬌のあるキャラクターで、うぐいすを飼うことで旗本一家を支えている。なんでもうぐいすの美声を求めんとする好事家が多く、鳴き方の指導、飼い方の指導などで旗本の収入以上に稼げるというのだから面白い。そしてうぐいすといえば美容の要である。うぐいすの糞は美肌を育てると高級化粧品として取り扱われてもいるので、こちらの面でも只次郎の収入源となっている。只次郎は武家ながらも気さくな人柄で、美味しいものに目がないことから居酒屋でも民衆と意気投合する姿に読み手もほっこりしてしまう。

 

そんなお妙と只次郎、そしてぜんやを贔屓とする旦那衆との日々のやり取りの中に、お妙が作るぜんやの料理の描写が出てくるのだが「ああ、こんなメニューもアリだよな」と思えてくる楽しみがある。時代小説の中のお料理の場面が好きな理由は、便利な道具や調味料もない時代でありながら、シンプルなメニューながらも食材を最大限に活かした料理に出会えるからだ。もちろん本当に江戸を生きた人々がこんな食事をしていたかどうかはわからない。でも、調理法だけでも「ああ、こういうやり方で作れるのか!」というアイデアを得られるのでストーリーの面白さにプラスして学びも得られる。

 

この九巻目では鯒(こち)という魚が登場する。ヒラメのように薄い体ながら、ふぐに似た魚で大変美味らしい。ふぐと違って毒はなく、夏場の魚とのこと。この本で初めて知った。調べてみると高級魚らしい。どうりで縁が無かったわけだ。お妙は三枚おろしにして刺し身として、卵は醤油煮、皮などは汁物として調理していた。食べてみたい一心で検索していたら、こんな動画を見つけた。なるほど鯒は白身なんだ。

 

 

時代小説も読んでいると「あれ?」と思うようなものがたまにあるけれど、この角川春樹事務所の時代小説文庫に限っては今の所ハズレにあたったことがない。残念ながらこの作品はまだKindleなどの電子書籍がでていないので文庫本での展開がお手頃だと思われるが、時代小説を買う時の目安として出版元もチェックするようになった。9巻の帯に「完結間近の第九巻」とあり、えええええ!もう終わってしまうの!?と早く続きを読みたくもありながら、終わってしまうのならばもう少し待っていたいという気持ちも。とにかく、読んでいて爽快な時代小説である。