#544 捕物にはやっぱり知的同心が最高ですね~「剣客定廻り 浅羽啓次郎 旗本同心参上」
『剣客定廻り 浅羽啓次郎 旗本同心惨状』 志木沢郁 著
若くして定廻りとなった啓次郎。
Kindle Unlimitedで面白い本を見つけてしまった。これまた時代小説なのだが、読み始めてすぐに没頭してしまい、気が付いたらあっという間に読み終えていた。
主人公の浅羽啓次郎は旗本の出身だ。それも千五百石もの家であったから、通常であれば同心になるということはないらしい。同心も与力も武士ではあるけど身分としてはあまり高くはないらしい。
啓次郎には兄がいる。父が亡くなり兄が家を継いだが、その兄は啓次郎とは一つも心が通うことはなかった。特に兄嫁への対応のひどさに啓次郎はますます兄から離れ、家を出て自堕落な生活を送っていた。八丁堀にも世話になり、どんどんと身を崩していた啓次郎を拾ったのは同心の浅羽勘五郎だった。勘五郎には子がなく、妻もすでに他界している。啓次郎はもともと人を見抜くほどに聡く、世の道理についても独自の説をもち、非常に賢かった。勘五郎は啓次郎を養子に取り、しかも元旗本であることが知られないようにと用心に用心を重ねた。一度同姓の御家人の家へ養子に入り、そこから浅羽家に養子に来た啓次郎は後を継ぐべく義父から多くを学ぼうとしていたところだった。
ところが勘五郎が卒中で半身麻痺が残り、急遽啓次郎が同心として後を継ぐ。若い啓次郎ではあったが、勘五郎の友人の梅田格之進が推薦、後見することで無事に同心となる。啓次郎は決して目立とうとするわけではないのだが、鋭利な推理により頭角を現し始める。
本書で「目明し」という言葉を知った。岡っ引きのことをこうも言うらしい。岡っ引きには家族が生計を立てられるような仕事を持っている場合は別として、ほぼ二足の草鞋で何等かの仕事を持っている。この小説に出てくるものは博打や掏摸などちょっぴり危うい。しかしそこも啓次郎の頭脳がしっかりとコントロールしていくところがかっこいい。
とにかく啓次郎の淡々と推理をするところがぐっとくる。また浅羽家に出入りする人達もみな魅力的だ。ああ、楽しい小説に出会ってしまった!残り2冊、早速読み進めたい。