Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#255 明治時代のお菓子事情、読んでるだけで食べたくなる!

 『アイスクリン強し』畠中恵 著

明治中頃、元旗本の息子たちは職を得た。

アイスクリン強し (講談社文庫)

アイスクリン強し (講談社文庫)

  • 作者:畠中 恵
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 文庫
 

 

この間のセール時に出ていた作品。そういえばこの作品は読んでいなかったなと購入してみた。

 

まず、結論から。私が時代小説というか江戸が舞台の小説を読むようになったきっかけは著者の『しゃばけシリーズ』に出会ったことなのだが、『しゃばけ』が好きな著者のファンにこの作品も『しゃばけ』同様に受け入れられるかと問うなら、私は「人を選びます」と答えるだろう。

 

現在シリーズ3巻まで発売されているところを見ると、ある一定のファンはいるのだと思う。ただ、『しゃばけ』を超えることはないだろうなと思った。なぜなら、想像を掻き立てるキャラ数で圧倒的に『しゃばけ』に負けているからだ。今までいくつかの著者の作品を読んできた。この作品はその中で唯一江戸が舞台ではないという特徴がある。

 

明治も半ば、すでに日本の身分制度が変わった頃が舞台となっており、主人公のミナと呼ばれる皆川真次郎は士族の身分でありながら親が早世したことから築地にある外国人居住区で育つというバックグラウンドを持っている。ミナの職業は西洋菓子職人で、唯一の日本人の友人たちは時代が時代なら「若様」と呼ばれるべき元旗本の息子たちだ。彼らは巡査として東京の町を守っている。そう、江戸ではなく東京のお話なのだ。

 

舞台が一気に明治のモダンで少しずつ西洋を取り入れる時代を描写しているので、目まぐるしい時代の変化とともにストーリ自体もどこかドタバタしていてる。ただそれは「そういう時期だった」と言われれば納得できるものだし、登場人物が20代の元気いっぱいな巡査たちで事件が起きる設定になっているわけだからドタバタもしよう。

 

ただ今まで江戸を舞台とした著者の作品に比べると登場人物の個性が薄いような気がしなくともない。むしろ『しゃばけ』が強烈すぎるのだろう。妖がこれでもかと登場する長崎屋とは違い、ミナが営む風琴堂には生身の人間しか出てこない。判を押したような江戸の侍文化が明治に入って数十年ですっかり変わっていたとも思えないので、巡査たちのキャラもなんとなく似たり寄ったり、ぼんやりな人もいる。

 

他の登場人物として小泉商会という貿易商がある。もと士族の身分だがうさぎを売って巨万の富を得、その後自らを成金と呼ぶ一家だ。社主はビジネスマン風に書かれており、ミナや巡査たちとも親しい娘は明るく活発で美しい女学生として登場する。『しゃばけ』の特徴たっぷりな妖にはない普通さ(とは言ってもそこは明治なので今に共通するものではないが)に「しゃばけよりつまらない」と思ってしまう人がいてもおかしくないかなと思った。

 

個人的にはミナの職業が西洋菓子職人ということで、シュークリームやエクレアやシードケーキなど、築地の居住区にいた外国人調理師や育ての親代わりのイギリス人たちから学んだお菓子の話が相当面白かった。そうか昔はこうやって作っていたのだな、などなど料理という観点から見ると大変に面白い。シードケーキなんて早々知っている人も少ないだろうし、あの時代にスパイスを喜んで食べたのか!というのも楽しい発見だった。

 

ということで、料理好きなら別の楽しみを感じながらストーリを楽しめるはずだ。残りの作品も早々に読んでいきたいと思う。